クラウス・マケラ指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 日本公演

マケラ&コンセルトヘボウ管の相性良好! 「響きの透明度」に狙いを定めた解像度の高いマーラー5番

ことしはクラウス・マケラの指揮を、つごう3つのオーケストラで聴くことができた。5月にシカゴ交響楽団を現地の本拠地で(アンコールに記事ありhttps://classicnavi.jp/encore/post-30766/)、6月にはパリ管弦楽団の来日公演で、そして今回はロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の来日だ。シカゴ響とコンセルトヘボウ管では2027年からシェフ就任が決まっている。こんな短時日に世界中の著名オーケストラを夢中にさせ、ポストを取りまくった指揮者を、きょうび他に知らない。

マケラが巧妙なのは、共演先に合わせて自身をアジャストし、相手の美質がストレートに表れるよう仕向ける点だ。楽員の士気も上がり、演奏の集中度が高まるので、共同作業が活性化される。シカゴ響、パリ管で発揮された手法は当然、コンセルトヘボウ管でも現れた。

2027年からロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のシェフに就任するクラウス・マケラが登場 ©️池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール
2027年からロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のシェフに就任するクラウス・マケラが登場 ©️池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール

当日の演目はR.シュトラウスの交響詩「ドン・ファン」にマーラーの交響曲第5番と、オーケストラの機能や状態を測るのに格好の題材。前半の「ドン・ファン」から良好な相性を思わせた。同管が誇る温かく色艶ゆたかで、しなやかなサウンドの土台は不変でも、世代交代などもあって、響き全体が若返った印象。マケラのスマートで見通しよい解釈が一役買っている。各セクションの精度はきわめて高く、フォルティッシモでも音色に潤いを失わない。金管の余裕ある咆吼(ほうこう)などに耳を奪われるうちに、結びへ至った。

前半の「ドン・ファン」からオケとの良好な相性を思わせた ©️池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール
前半の「ドン・ファン」からオケとの良好な相性を思わせた ©️池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール

メーンのマーラー交響曲第5番で、マケラの戦略はより明確になった。マーラー演奏で長い歴史と伝統を誇る同管を前に、彼が狙ったのは「響きの透明度」だった。これは音色やハーモニー、ダイナミクス、リズムなど、あらゆる構成要素に目を配り、演奏トータルでの解像度を上げることを意味する。来日に合わせて発売された同8番「千人の交響曲」のCD解説書でも、彼は同様の発言をしている。

同日の実演では、例えば弦と管の周到なバランスを図ることで、第2楽章後半の錯綜する分厚い管弦楽法から各声部の思わぬ動きを浮き彫りにした。しかし単なるディテール強調が目的ではないので、あざとさがない。弱音で沈潜する部分では、オーケストラ持ち前の陰影が効果的に表れた。第3楽章スケルツォでは諧謔(かいぎゃく)味を重んじて、ストップ・アンド・ゴーを繰り返すスイング感を生き生きと描出。低弦は密度感と柔軟性に富むうねりを発し、ベルアップした木管では奏者がそのまま踊り出しそうな勢いだった。

マーラーの交響曲第5番では、作品のあらゆる構成要素に目を配り、解像度を上げることに意識が向けられた ©️池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール
マーラーの交響曲第5番では、作品のあらゆる構成要素に目を配り、解像度を上げることに意識が向けられた ©️池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール

目の詰んだ弦楽合奏が端正に歌い込んだ第4楽章を経たフィナーレでは、一気に空気を解放し、晴れやかな気分を強調。爽快なドライブ感と共にクライマックスを築いた。

マケラという若武者との共同作業を通じて、欧州屈指の名門がどんな変貌を遂げるのか、一段とエキサイティングな展開になりそうだ。

(深瀬満)

マケラとコンセルトヘボウ管との今後の展開に期待が高まる演奏を聴かせてくれた ©️池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール
マケラとコンセルトヘボウ管との今後の展開に期待が高まる演奏を聴かせてくれた ©️池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール

公演データ

クラウス・マケラ指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 日本公演

11月16日(日)17:00ミューザ川崎 シンフォニーホール

指揮:クラウス・マケラ
管弦楽:ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

プログラム
R.シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」
マーラー:交響曲 第5番 嬰ハ短調

他日公演
11月17日(月)19:00、18日(火) 19:00
いずれもサントリーホール
※プログラムや出演者の詳細は、下記リンク先をご参照ください。
https://www.kajimotomusic.com/concerts/2025-rco/

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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