8年ぶりのN響定期登場で「音の魔術師」健在ぶりを示した89歳のシャルル・デュトワ
デュトワは2017年12月の定期以来、N響との共演が途絶えていた。昨年、NHK音楽祭で7年ぶりの再共演を果たし、ストラヴィンスキー「春の祭典」などで機敏なバトン・テクニックを駆使し、時にシャープに、また時には繊細にオケをリードし「音の魔術師」の面目躍如たる指揮ぶりを披露した。今年89歳、この日も舞台袖と指揮台を行き来する足取りは軽やか、切れ味鋭いバトンでオケを力強くけん引して、N響から〝デュトワ・サウンド〟を引き出してみせた。
1曲目は女声合唱を伴うメシアンの神の現存の3つの小典礼。独奏ピアノ(小菅優)、オンド・マルトノ(大矢素子)、チェレスタ、ヴィブラフォーンを中心とした複数の打楽器、そして小人数(8・8・6・6・4)の弦楽器という変則的な編成。第1楽章「内的〝会話〟のアンティフォナ」から多彩な音色が次々と繰り出されていく。オケの人数が少ないにもかかわらず豊かな鳴りに驚かされる。デュトワの監督時代、彼が指揮台に立つといつもより大きく鳴っているように感じたことを思い出した。今回も念入りにリハーサルをしたのであろう。音程や各パート間のバランスが精密にコントロールされた結果、オケ全体が豊かに鳴っているように聴こえたに違いない。
第2楽章「〝言葉〟のセクエンツィア、神の賛歌」では俊敏なリズム運びをベースに比較的調性が明確な旋律が鮮やかな音色の変化とともに紡がれた。
後半はホルストの「惑星」。4管編成16型の大編成のオケをデュトワは音楽監督時代と変わらぬ強烈なハンドリングで統御し圧巻の演奏に仕上げた。
1曲目「火星」から度肝を抜かれる。最初のフォルティシモで広いNHKホールを満たす豊かな響きと激しいリズム運びは目を見張るものがあったからだ。2曲目「金星」では調性が変化していく際の響きのうつろいがデリケートに、しかも美しく表現されていた。有名な第4曲「木星」はスケールの大きな構えで壮麗な演奏。なお、この日のホルン首席はパリ管首席のブノワ・ド・バルソニー。安定感抜群、表情豊かなソロで金管楽器陣の柱になっている印象を受けた。続く第5曲「土星」は調性の不安定さを巧みに捉えて音色の変化を際立たせた。6曲目「天王星」のリズムのキレ、7曲目「海王星」の深遠な響きも見事に表出されていた。「海王星」の女声合唱は前半のメシアンにも通じるものがあり、プログラミングの妙にも感心させられた。
(宮嶋 極)
公演データ
NHK交響楽団第2048回定期公演
11月8日(土)18:00 NHKホール
指揮 : シャルル・デュトワ
ピアノ : 小菅 優
オンド・マルトノ : 大矢 素子
女声合唱 : 東京オペラシンガーズ
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:郷古 廉
プログラム
メシアン:神の現存の3つの小典礼
ホルスト:組曲「惑星」Op.32
他日公演
11月9日(日)14:00NHKホール
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。










