SKOの強力なポテンシャルと樫本大進の圧巻のソロが強い印象を残したOMFオーケストラコンサート Aプログラム
小澤征爾さんが亡くなって約1年半、今後が注目されるセイジ・オザワ松本フェスティバル(OMF)だが、この日はサイトウ・キネン・オケ(SKO)の高いポテンシャルが依然健在であることを示した充実のコンサートとなった。
欧米でオペラ、コンサートの両面でキャリアを積んでいる英国出身の指揮者、アレクサンダー・ソディを迎えてのオール・ロシア作品のプログラム。小澤さんが健在だった時と同じく指揮者とオケ・メンバー全員が一斉にステージに登場しコンサートはスタートした。

1曲目、シチェドリンの「お茶目なチャストゥーシュカ」は活発なリズム運びと民謡を題材にした独特の旋律が特徴的な作品。多彩なリズムと複合旋律に対して、この曲でコンマスを務めた島田真千子(セントラル愛知響ソロ・コンマス)をはじめオケ・メンバーの俊敏な反応が際立つ演奏となり、SKOの高い合奏能力がいきなり全開になったように感じた。

続いてベルリン・フィル第1コンマスの樫本大進をソリストにショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番。ソディは樫本のオケを引っ張る力を最大限に活用しているような指揮ぶりで、テンポの変化もソリストがイニシアティブを取っているように映った。そして何よりも調性が曖昧な複雑な譜面を驚く程の正確な音程で、切り込み鋭い表現を次々と繰り出す樫本のソロは圧巻のひと言に尽きた。SKOのぶ厚いサウンドに埋もれることなく、豊かな鳴りを終始保ちながら演奏をリードしていく樫本の充実ぶりは目を見張るものだった。

メインのショスタコーヴィチの交響曲第5番はオーソドックスなアプローチながら、SKOの凄まじいパワーと管楽器プレイヤーの個人技が光る秀演。第1楽章冒頭の弦楽器の厚い響きが聴衆の集中力を一気に高める。展開部に入るとソディは急加速し、畳みかけるような勢いをもって再現部になだれ込んだ。第2楽章も冒頭のチェロ・バスのぶ厚いサウンドに圧倒される。第3楽章、欲を言えばもう少しすすり泣くような重苦しさが欲しいと感じた。終楽章は第1楽章と同じく、SKOのポテンシャルの高さに圧倒されるような演奏。コーダに入ってブラスとティンパニの強奏の前に刻みを繰り返す弦楽器の厚い音の壁も聴く者を圧倒するものであった。終演後、オケが退場しても鳴りやまぬ喝采に、小澤さん健在時同様、指揮者とオケ・メンバー全員がステージに再登場して歓呼に応えていた。
(宮嶋極)

公演データ
セイジ・オザワ松本フェスティバル2025
オーケストラコンサート Aプログラム
8月23日(土)15:00 キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)
指揮:アレクサンダー・ソディ
ヴァイオリン:樫本大進
管弦楽:サイトウ・キネン・オーケストラ
コンサートマスター:島田真千子、白井圭、小森谷巧(演奏曲順)
プログラム
シチェドリン:管弦楽のための協奏曲第1番「お茶目なチャストゥーシュカ」
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調Op.77
ショスタコーヴィチ:交響曲 第5番ニ短調Op.47

みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。