ジョナサン・ノット指揮 スイス・ロマンド管弦楽団 日本公演1日目

阿吽(あうん)のコンビネーションで聴かせたエキサイティングな魅力に溢れる演奏

ジョナサン・ノット指揮スイス・ロマンド管弦楽団の日本公演初日。オネゲルの交響的運動第2番「ラグビー」、ショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番(独奏は上野通明)、ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」(1911年版)が並ぶ20世紀プログラムが極めて興味深い。
超A級でこそないスイス・ロマンド管だが、各パートのクオリティは高く、何よりフランス圏特有の〝色〟がある。そこにノット一流の精緻さと生気(+ミューザのリアルな音響)が加わり、刺激に富んだ一夜となった。

ジョナサン・ノット率いるスイス・ロマンド管弦楽団の日本公演が開幕した Photo by Taichi Nishimaki
ジョナサン・ノット率いるスイス・ロマンド管弦楽団の日本公演が開幕した Photo by Taichi Nishimaki

「ラグビー」は鮮烈で躍動感抜群。両チームを表す旋律=横の線より、響きの立体感=縦の線が重視されながら、終始動的に運ばれる。まさに〝運動〟!生演奏の稀な曲を作曲者の国の名楽団の快演で耳にできたのは実に貴重だ。

チェロ協奏曲は引き締まった好演。上野のソロは表情豊かで集中力が高く、聴く者をグッと惹きつける。カデンツァは丁寧で細やか。ホルン独奏をはじめとする雄弁なバックも光る。上野のアンコール=プロコフィエフの行進曲もセンスがいい。

チェロ協奏曲でソリストを務めた上野通明は表情豊かで集中力が高く、聴く者を惹きつけた Photo by Taichi Nishimaki
チェロ協奏曲でソリストを務めた上野通明は表情豊かで集中力が高く、聴く者を惹きつけた Photo by Taichi Nishimaki

「ペトルーシュカ」は4管編成の1911年版の使用がポイント。演奏機会の多い3管編成の1947年版とは違った各パートの細かな動きが清新な感触をもたらす。第1部は混濁しない明瞭な構築、第2部はシャープさとピアノの生き生きとしたソロ、第4部は各踊りの描き分けと最終部分の語り口が秀逸。全体にカラフルな交響詩的表現だが、常に〝弾み〟が保たれているので、舞踊音楽としての妙味も十分だ。

「ペトルーシュカ」は4管編成(1911年版)を使用し、全体にカラフルな交響詩的表現 Photo by Taichi Nishimaki
「ペトルーシュカ」は4管編成(1911年版)を使用し、全体にカラフルな交響詩的表現 Photo by Taichi Nishimaki

ストラヴィンスキー「花火」のアンコールも大ヒット。録音等では出世作たる理由が判然としなかったこの曲の才気に満ちた造作を実感できた。

ノットが同楽団のシェフになってもう8年。ゆえに阿吽(あうん)のコンビネーションが確立しているのを感じるし、伝統に脈動を上書きしたその演奏は、エキサイティングな魅力に溢れている。

(柴田克彦)

ノットはスイス・ロマンド管の伝統に脈動を上書きした、エキサイティングな演奏を聴かせた Photo by Taichi Nishimaki
ノットはスイス・ロマンド管の伝統に脈動を上書きした、エキサイティングな演奏を聴かせた Photo by Taichi Nishimaki

公演データ

ジョナサン・ノット指揮 スイス・ロマンド管弦楽団

7月8日(火)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール

指揮:ジョナサン・ノット
チェロ:上野 通明
管弦楽:スイス・ロマンド管弦楽団

プログラム
オネゲル:交響的運動第2番「ラグビー」
ショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲第1番 変ホ長調 Op.107
ストラヴィンスキー:バレエ「ペトルーシュカ」(1911年版)

ソリスト・アンコール
プロコフィエフ: 子供のための音楽 Op.65から「行進曲」

アンコール
ストラヴィンスキー: 花火Op.4


※他日公演

〇7月9日(水)19:00 サントリーホール 大ホール
指揮:ジョナサン・ノット
ヴァイオリン:HIMARI
管弦楽:スイス・ロマンド管弦楽団

プログラム
ジャレル:ドビュッシーによる3つのエチュード
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲ニ短調 Op.47
ストラヴィンスキー:バレエ「春の祭典」

〇7月11日(金)19:00 京都コンサートホール 大ホール
指揮:ジョナサン・ノット
チェロ:上野通明
管弦楽:スイス・ロマンド管弦楽団

プログラム
W.ブランク:モルフォーシス
ショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲第1番 変ホ長調 Op.107(チェロ: 上野 通明)
ストラヴィンスキー:バレエ「ペトルーシュカ」(1911年版)

〇7月12日(土)15:00 とりぎん文化会館(鳥取県立県民文化会館) 梨花ホール
指揮:ジョナサン・ノット
ヴァイオリン:HIMARI
管弦楽:スイス・ロマンド管弦楽団

プログラム
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲ニ短調 Op.47
ストラヴィンスキー:バレエ「春の祭典」

〇7月13日(日)15:00 愛知県芸術劇場コンサートホール
指揮:ジョナサン・ノット
ヴァイオリン:HIMARI
管弦楽:スイス・ロマンド管弦楽団

プログラム
ジャレル:ドビュッシーによる3つのエチュード
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲ニ短調 Op.47
ストラヴィンスキー:バレエ「春の祭典」

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柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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