本場の熱気と楽しさをそのまま富士山麓に持ち込んだベルリン・フィル ヴァルトビューネ河口湖
ベルリン・フィル(BPH)のヴァルトビューネ(森の舞台)野外コンサートの引っ越し公演が、7月5日夕、山梨県の河口湖ステラシアターで行われた。

BPHの同コンサートは毎年のシーズンを締めくくる名物企画。ベルリン市郊外のオリンピアパルクにある約2万人超収容の野外音楽堂「ヴァルトビューネ」を会場に1984年にスタート。多くの音楽ファンがリラックスしたスタイルでBPHの演奏を楽しめることで人気を集めている。今年は6月27、28日にドゥダメルの指揮で、ラテン・アメリカを中心とした米国音楽をテーマに開催された。そのステージをそのまま富士山麓に移して初の海外開催となったのが、この日の公演。
会場となったステラシアターは古代ローマの円形劇場のようなすり鉢状の構造で音響特性に優れ、この日もPAなしで演奏が行われた。
会場は3000人超の聴衆で満員。オケが舞台に勢揃いするとコンマスの樫本大進が先導し、メンバー全員がスポーツ観戦で行われるウエーブを繰り返し、客席もそれに合わせてウエーブを行うなど開演前から熱気と楽しい雰囲気に包まれた。

1曲目はメキシコの作曲家オルティスのカウユマリ。2021年にロス・フィルの委嘱で作曲され、ドゥダメルの指揮で初演された作品。いくつかの旋律を繰り返しながら色彩感を加えて発展させていく作風で、管楽器陣の名人芸が冴(さ)えわたった。この日の木管トップはエマニュエル・パユ(フルート)、ジョナサン・ケリー(オーボエ)、ヴェンツェル・フックス(クラリネット)、ダニエレ・ダミアーノ(ファゴット)。ホルンはシュテファン・ドールであった。前半の注目はドゥダメルがシモン・ボリバル・ユース・オケを率いて行った世界ツアーで有名となったメキシコの作曲家マルケスのダンソン2番。BPHにかかると変化に富んだリズムと叙情的な旋律が瑞々しい生命感をもって迫ってくる。圧倒的な個人技と絶妙なアンサンブルが、こうしたラテン系の作品でも強い光を放っていた。
リズムの妙といえば、後半、プエルトリコの作曲家シエラのアレグリアでは弦と管が同時に異なる拍子とリズムで演奏するポリリズムでもBPHの上手さによって、強靭(きょうじん)な推進力が生み出されていた。メインはバーンスタインの「ウエスト・サイド・ストーリー」からシンフォニックダンス。野外にも関わらずBPHの分厚いサウンドと繊細なハーモニーが鮮やかな対比をもって表現され、静かな箇所では鳥のさえずりや虫の音も彩りを添えた。盛大な拍手に応えてヨハン・シュトラウス2世のトリッチ・トラッチ・ポルカのラテン編曲版でボルテージは頂点に。最後は恒例、リンケの「ベルリンの風」で聴衆も手拍子と口笛、スマホのライトで参加し、会場全体が一体となって華々しく幕を閉じた。
(宮嶋 極)

公演データ
グスターボ・ドゥダメル指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 ヴァルトビューネ河口湖2025
7月5日(土)17:30 河口湖ステラシアター
指揮:グスターボ・ドゥダメル
管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
コンサートマスター:樫本 大進
プログラム
ガブリエラ・オルティス:カウユマリ(カモシカ)
デューク・エリントン:「スリー・ブラック・キングス」より〝マーティン・ルーサー・キング〟
アルトゥーロ・マルケス:ダンソン第2番
エヴェンシオ・カステリャーノス:パカイリグアの聖なる十字架
ロベルト・シエラ:アレグリア
アルトゥーロ・マルケス:ダンソン第8番~モーリスへのオマージュ~
レナード・バーンスタイン:「ウエスト・サイド・ストーリー」より〝シンフォニックダンス〟
アンコール
ヨハン・シュトラウス2世(ポール・ドゥセンヌ編):トリッチ・トラッチ・ポルカ
リンケ:ベルリンの風
※他日公演
7月6日(日)15:00河口湖ステラシアター

みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。