カリーナ・カネラキス指揮 東京都交響楽団 第1023回 定期演奏会Bシリーズ

都響で堂々日本デビュー!カネラキスがマーラー「巨人」で、とてつもないエネルギーを放つ

5月のウルバンスキ、6月の沖澤のどかと都響は初共演の指揮者が続いているが、今回登場したカリーナ・カネラキスは7月4日、5日の都響が日本デビューとなる。注目の初共演で選んだのはマーラーの「巨人」。終演後数時間たっても、頭の中を輝かしいコーダが鳴り続けている。とてつもないエネルギーを放つ指揮者だった。

都響に初登場、かつ、この公演が日本デビューとなったカリーナ・カネラキス(左)。ソリストのアリス=紗良・オット(右)とともに歓呼に応えた (C)Rikimaru Hotta
都響に初登場、かつ、この公演が日本デビューとなったカリーナ・カネラキス(左)。ソリストのアリス=紗良・オット(右)とともに歓呼に応えた (C)Rikimaru Hotta

カネラキスの指揮は長身の体躯を活かしダイナミック。第1楽章は自然の中をまどろむようなのどかな演奏に最後のアッチェレランドが効果的、第2楽章のレントラーでは素朴で勢いのあるステップからトリオでの艶かしいニュアンスまで、マーラーが盛り込んだキャラクターが使い分けられる。第3楽章の聖と俗が目見えるようなコントラストも明快だ。第4楽章の展開部に入る253小節目のアウフタクトでとった間はドキッとするほどで、盛りだくさんな曲想を恣意的にならずに、実は緻密に構成している。コンサートマスターの水谷晃はじめ全ての奏者がカネラキスのタクトにのびのびと反応していたこともあって、最後のホルン(8人)が立奏するコーダでは途中から加わったトランペットとトロンボーン奏者を含む10人が立ち上がり、マーラーの望むコラールが壮大な作品の締めに鳴り響いた。

マーラーの交響曲第1番「巨人」で聴かせた輝かしいコーダは、終演後数時間たっても頭の中で鳴り続けるような、圧巻の演奏だった (C)Rikimaru Hotta
マーラーの交響曲第1番「巨人」で聴かせた輝かしいコーダは、終演後数時間たっても頭の中で鳴り続けるような、圧巻の演奏だった (C)Rikimaru Hotta

前半はアリス=紗良・オットをソリストに迎えたラヴェルのピアノ協奏曲、今年の5月にもバイエルン放送響で2人は同曲を共演したばかりという。磨き抜かれたピアノの音色と随所にラヴェルが織り込んだ進取のリズムを際立たせる表現が鮮やか。夢の中を漂うような歌心にあふれるピアノソロの流れを汲(く)む2楽章の終わりで静かに消えていく弦の美しさにも心が震えた。アンコールの前に「ライブでしか体感できない音の響きを客席と一緒に作っていきたい」というメッセージがあってアルヴォ・ペルトの「アリーナのために」に耳を澄ませた。聴く度にその音楽の魅力が増しているピアニストだと改めて思う。

ラヴェルのピアノ協奏曲でソリストを務めたアリス=紗良・オット。磨き抜かれた歌心にあふれるピアノを披露した (C)Rikimaru Hotta
ラヴェルのピアノ協奏曲でソリストを務めたアリス=紗良・オット。磨き抜かれた歌心にあふれるピアノを披露した (C)Rikimaru Hotta

日本デビューを見事な演奏で飾ったカネラキスは、7月9日からPMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌)でも3公演、指揮するとのこと、新たなファンが拡がっていくだろう。 
(毬沙琳)

公演データ

東京都交響楽団 第1023回定期演奏会Bシリーズ

7月4日(金)19:00サントリーホール 大ホール

指揮:カリーナ・カネラキス
ピアノ:アリス=紗良・オット
管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:水谷 晃

プログラム 
ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調
マーラー:交響曲第1番ニ長調「巨人」

ソリスト・アンコール
アルヴォ・ペルト:アリーナのために

※他日公演
7月5日(土)14:00サントリーホール 大ホール

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毬沙 琳

まるしゃ・りん

大手メディア企業勤務の傍ら、音楽ジャーナリストとしてクラシック音楽やオペラ公演などの取材活動を行う。近年はドイツ・バイロイト音楽祭を頻繁に訪れるなどし、ワーグナーを中心とした海外オペラ上演の最先端を取材。在京のオーケストラ事情にも精通している。

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