都響への本格デビューでさらなる進化を示した沖澤のどかの「春の祭典」
沖澤のどかの東京都交響楽団への本格デビューとなった都響スペシャル。得意のフランスものとパリ繋がりのストラヴィンスキー「春の祭典」で目の覚めるような快演を聴かせた。
1曲目、ドビュッシーの牧神の午後への前奏曲冒頭から沖澤ならではの音作りが際立っていた。弦楽器の弱音のトレモロによる微細な音の移ろいが、ミューザの解像度の高い音響も手伝って透明感をもって明瞭に聴こえ、フルートをはじめとする管楽器のソロをデリケートに支えて美しい音空間を創出したからだ。ホールの音響特性も考慮に入れたであろう沖澤のアプローチに彼女の非凡な才能が窺えた。

プーランクの2台のピアノのための協奏曲ではフランスの名手フランク・ブラレイと務川慧悟の柔らかなタッチから繰り出される多彩な音色のピアノに対して沖澤と都響は軽快さとシャープさを柔軟に使い分けながら応じ都会的センスあふれる音楽に仕上げていた。

この日の白眉はやはり「春の祭典」であろう。リズムの拍動を大地の鼓動のように浮き彫りにして、それを土台に音楽を展開していくスタイル。聴いていて思わず体が動いてしまうようなノリの良さから、この作品が踊りの音楽であることを再認識させられる思いがした。第1部、序奏に続く「春のきざしと乙女たちの踊り」のように変拍子が連続する複雑なリズムもギクシャクすることなく、力強い推進力を伴って音楽を進めつつ、時にテンポを揺らして劇的な表情付けも巧みに行っていた。オケ全体がフォルティシモで鳴る箇所でも響きが混濁することなく、不協和音がなぜか美しく聴こえた点も興味深い。第1部の終曲「大地の踊り」、全曲の締めくくりとなる「生贄(いけにえ)の踊り」ではエンディングに向かって加速していき、切れ込み鋭い圧巻のクライマックスを作り上げた。高い熱量をもって沖澤の要求に的確に応えた都響の高度な技術力と音楽性にも拍手を贈りたい。
(宮嶋 極)

公演データ
都響スペシャル
6月15日(日)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:沖澤 のどか
ピアノ:フランク・ブラレイ、務川 慧悟
管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:矢部 達哉
プログラム
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
プーランク:2台のピアノのための協奏曲 ニ短調
ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」
ソリスト・アンコール
プーランク:カプリッチョFP155(フランク・ブラレイ&務川 慧悟)

みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。