佐渡裕指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団 定期演奏会 すみだクラシックへの扉 第31回

佐渡裕が新日本フィルと初のイギリス・プログラムで充実した演奏を聴かせる

6月の新日本フィル「すみだクラシックへの扉」は、音楽監督・佐渡裕が指揮するイギリス・プログラム。前半にホルストの「セントポール」組曲とエルガーの行進曲「威風堂々」第1番、後半にホルストの組曲「惑星」(女声合唱は栗友会合唱団)が披露された。

佐渡裕が指揮台に立ち、イギリス・プログラムを振った (C)TERASHI Masahiko
佐渡裕が指揮台に立ち、イギリス・プログラムを振った (C)TERASHI Masahiko

弦楽合奏による「セントポール」組曲の第1曲が始まってすぐに、ことのほか豊潤な響きと強弱の幅広さに驚かされ、次いで弾んだリズムと絶妙なテンポ変化に感心させられる。第2曲、第3曲は繊細な表現が際立ち、第4曲は明確なリズムに重ねられる「グリーンスリーブス」の大きな抑揚が印象的。同曲は、佐渡の深い見識と新日本フィル弦楽器陣の質の向上を如実に示す好演だった。「威風堂々」はイメージ通りの堂々たる演奏。最後の荘厳な高揚に心置きなく身を浸す。

ホルストの組曲「惑星」 (C)TERASHI Masahiko
ホルストの組曲「惑星」 (C)TERASHI Masahiko

「惑星」も予想以上にダイナミックレンジの広い表現。「火星」は攻撃的なリズムや大迫力の響きのみならず、隠れがちな弦楽器のフレーズの豊かな表情に魅せられる。これは意外に成されない目配りだ。「金星」と「水星」は繊細なフレーズの応酬。「木星」は豊麗・雄大な音楽がストレートに展開される。「土星」は実にデリケートで、盛り上がる後半への転換が見事。「天王星」はカラフルかつ雄弁で、クライマックスの圧倒的迫力に感嘆させられる。この曲がかくも存在感を発揮した演奏は稀(まれ)だ。最後の「海王星」は弱音の中で様々な動きが明滅する。中でも舞台裏の女声合唱にハープのあえかな爪弾きが絡む様は実に新鮮。同曲は、通り一遍の表現に留まらず、様々な工夫が施された快演だった。

「海王星」では通り一遍の表現に留まらず、様々な工夫が施されていた (C)TERASHI Masahiko
「海王星」では通り一遍の表現に留まらず、様々な工夫が施されていた (C)TERASHI Masahiko

音楽監督として3年目に入った佐渡がより踏み込んだアプローチを敢行し、新日本フィルの機能性やレスポンスがアップしたことで、以前にまして充実した演奏が成就されるようになったことを実感する公演だった。
(柴田克彦)

公演データ

新日本フィルハーモニー交響楽団 定期演奏会 すみだクラシックへの扉 第31回

6月13日(金)14:00すみだトリフォニーホール

指揮:佐渡 裕
合唱指揮:栗山 文昭
合唱:栗友会合唱団
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:西江 辰郎

プログラム
ホルスト:セントポール組曲Op.29-2
エルガー:威風堂々 第1番ニ長調Op.39
ホルスト:組曲「惑星」Op.32,H.125

※他日公演
6月14日(土)14:00すみだトリフォニーホール

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柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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