大御所ハインツ・ホリガーが登場!新日本フィルと最後まで緊張感あるハイクオリティな演奏を聴かせる
5月の新日本フィル定期は、86歳の大御所ハインツ・ホリガーの登場。この〝世界的人間国宝〟が指揮者とオーボエ奏者の二面を披露する。

前半は自身の音楽家人生に深い影響を与えた作曲家と作品。ここでは、張り詰めた緊張感が支配し、音に対する鋭敏な感覚を実感させる。1曲目は吹き振りによるルトスワフスキの「オーボエとハープのための二重協奏曲」。1980年に自身が初演した作品だ。ホリガーのオーボエの雄弁さと存在感は今なお健在。吉野直子の巧みなハープと共に、神秘的かつエネルギッシュな音楽が生み出される。全員が異なる音符を弾く12人の弦楽器奏者と打楽器陣もデリケートな好演。さらには、作曲家ホリガーの師ヴェレシュがその師を悼んで書いた「ベラ・バルトークの思い出に捧げる哀歌」と、同じ経緯によるルトスワフスキの「葬送音楽─バルトークを偲んで」が続く。いずれも集中力抜群の演奏で、弦楽器陣がいつになく高精度のアンサンブルを展開する。

後半は一転してメンデルスゾーンの作品。前半との対照性はむろんありながら、音に対する繊細な配慮は共通しているので、緊張感が緩むことはない。最初の序曲「フィンガルの洞窟」も室内楽的なテイスト。自然の情景が大雑把に描かれるのではなく、洞窟の細かな材質や形状、海の微妙な変化が次々に表出されるといった趣だ。続く交響曲第4番「イタリア」も、明朗一辺倒の表現に陥らず、町や人の状況を微細に描くかのような造作が新鮮だし、アタッカで続いた全4楽章が連作交響詩のように感じられる。
デュトワ等の客演時とは若干方向性が異なる〝ハイクオリティの新日本フィル〟が明示された公演。こうした偉大な音楽家の招聘(しょうへい)や企画をまたぜひ望みたい。
(柴田克彦)

公演データ
新日本フィルハーモニー交響楽団 第663回定期演奏会
5月24日(土)14:00すみだトリフォニーホール
指揮・オーボエ : ハインツ・ホリガー
ハープ:吉野 直子
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:西江 辰郎
プログラム
ルトスワフスキ:オーボエとハープのための二重協奏曲
ヴェレシュ:ベラ・バルトークの思い出に捧げる哀歌
ルトスワフスキ:葬送音楽 -バルトークを偲んで-
メンデルスゾーン:序曲「フィンガルの洞窟」
メンデルスゾーン:交響曲第4番イ長調 Op.90「イタリア」

しばた・かつひこ
音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。