都響に初登場したウルバンスキが非凡な手腕を発揮!
ポーランドの俊英指揮者、クシシュトフ・ウルバンスキが東京都響との初共演に臨んだ。東響の首席客演指揮者(2012~16)で力量は既におなじみ。ショスタコーヴィチ没後50年を記念し、含蓄の深い解釈でうならせた。

最初は母国の現代作曲家、ペンデレツキによる「広島の犠牲者に捧げる哀歌」。今も緊迫する世界情勢が、おのずと意識される。特殊奏法とトーンクラスターが交錯する曲想は、聴衆にも高い緊張を強いる。ウルバンスキは暗譜で振り通して強い共感を示し、繊細な弱音を駆使した濃密な音世界を作り上げた。この広大な弱音のパレットが、当夜を貫くひとつのカギとなる。
乾いたユーモアが表に出るショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第2番ですら、弱音が重要な働きをするとは思わなかった。リーズ国際ピアノ・コンクール(2015年)の覇者、アンナ・ツィブレヴァが紡ぎ出す硬質なリリシズムを引き立てようと、ウルバンスキは管弦楽を意識的に抑え、慎重にソロとのバランスを取った。決して威圧的に突出させず柔軟性を保つことで、対比の妙とゆとりあるたたずまいを演出した。

後半のショスタコーヴィチ交響曲第5番ニ短調も同工。政治的背景や含意をめぐる議論の尽きない問題作だが、ウルバンスキの行き方はエネルギーの粗雑な噴出とは一線を画す。緻密な読みに支えられた精妙かつ客観的な解釈で、弱音方向に豊富なグラデーションをもつ表現語法を掘り下げ、作品から新たな側面を引き出した。都響の優れたアンサンブルが大いに貢献した。
第1楽章冒頭から大げさな誇張を避け、クライマックスでも粘らず大見得を切らない。グロテスクなスケルツォのはずの第2楽章は軽妙なディヴェルティスマンのように、しゃれのめした。弱音の美学をさらに徹底した第3楽章は、まさに息をのむシリアスな展開で、都響の弦楽セクションが威力を発揮した。第4楽章の終わりでは金管によるファンファーレの音量を抑え、弦楽器によって繰り返される音型を強調。真の勝者は作曲家とでも言いたげな幕切れとなった。
初共演にして、この完成度。ウルバンスキの非凡な手腕と、都響との相性に目を見はった。
(深瀬満)

公演データ
東京都交響楽団 第1021回定期演奏会Bシリーズ
5月16日(金)19:00サントリーホール 大ホール
指揮:クシシュトフ・ウルバンスキ
ピアノ:アンナ・ツィブレヴァ
管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:矢部達哉
プログラム
【ショスタコーヴィチ没後50年記念】
ペンデレツキ:広島の犠牲者に捧げる哀歌
ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第2番ヘ長調Op.102
ショスタコーヴィチ:交響曲第5番ニ短調Op.47
ソリスト・アンコール
ショスタコーヴィチ:24の前奏曲 Op.34 より第10番 嬰ハ短調
※他日公演
5月17日(土)14:00サントリーホール 大ホール

ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。