大野和士指揮 東京都交響楽団 第1019回定期演奏会Bシリーズ

パッションの強要なくして高い充足感を与える公演

4月の都響定期Bシリーズ。音楽監督・大野和士の指揮で、ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番(独奏はキルギス出身のアリョーナ・バーエワ)とチャイコフスキーの交響曲第5番が披露された。

都響の音楽監督・大野和士が指揮台に立った(C)Rikimaru Hotta
都響の音楽監督・大野和士が指揮台に立った(C)Rikimaru Hotta

没後50年の今年連続するショスタコーヴィチ作品と、あまりに演奏回数の多いチャイコフスキーの5番という(個人的には)些(いささ)か食傷気味のプログラムだが、そこはさすが大野&都響。「ロシア臭を抑えた音楽的感興溢れる演奏」が展開された。

ショスタコーヴィチは、瞑想的で終始緊張感が支配した第1楽章、明瞭さと軽みを兼備したソロが目覚ましい第2楽章、張りとスケール感のあるソロに余裕十分のカデンツァが続いた第3楽章、鮮烈に疾走した第4楽章と推移。強靭ながらも力みのないバーエワのソロと、曲のモダンな側面をナチュラルに表出していくバックが相まって、作品の魅力が爽快に伝えられた。ソロのアンコールは、珍しいバツェヴィチの「ポーランド・カプリース」。彼女も今度は豊麗なソロで魅了した。

アリョーナ・バーエワが、強靭ながらも力みのないソロを披露した(C)Rikimaru Hotta
アリョーナ・バーエワが、強靭ながらも力みのないソロを披露した(C)Rikimaru Hotta

チャイコフスキーは、「1888年という近代迫る時期に書かれた純粋器楽交響曲の特質や妙味をダイナミックに表現した快演」。極めてシンフォニックかつ西欧色の濃いこの演奏が、オーソドックスなテンポとごく自然な造作で成就されたのは、大野&都響の類い稀なセンスの賜物だろう。中でも光ったのが第2楽章。ニュアンス豊かな出だしから耳を奪われ、「運命主題」が強調された壮麗・壮大なクライマックスに何度も圧倒される。第4楽章冒頭の長調に変貌した「運命主題」の芳醇でベタつかない風情も秀逸。同曲は特にそうだが、全体を通じて「パッションの強要なくして高い充足感を与える公演」と相なった。

(柴田克彦)

チャイコフスキーの交響曲第5番は、大野&都響の類い稀なセンスを感じさせた(C)Rikimaru Hotta
チャイコフスキーの交響曲第5番は、大野&都響の類い稀なセンスを感じさせた(C)Rikimaru Hotta

公演データ

東京都交響楽団 第1019回定期演奏会Bシリーズ

4月22日(火)19:00サントリーホール 大ホール

指揮:大野和士
ヴァイオリン:アリョーナ・バーエワ
管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:山本友重

プログラム
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調Op.77
チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調Op.64

ソリスト・アンコール
グラジナ・バツェヴィチ:ポーランド・カプリース

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柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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