パーヴォ・ヤルヴィ指揮 NHK交響楽団 第2034回 定期公演Aプログラム

2年ぶりにN響に登場したパーヴォ・ヤルヴィが鮮やかで力強い演奏を引き出した

NHK交響楽団の前首席指揮者で現在は名誉指揮者の肩書を持つパーヴォ・ヤルヴィが2年ぶりに同オケの指揮台に立ち、鮮やかな快演を聴かせてくれた。

名誉指揮者のパーヴォ・ヤルヴィが、2年ぶりにN響の指揮台に立った 写真提供:NHK交響楽団
名誉指揮者のパーヴォ・ヤルヴィが、2年ぶりにN響の指揮台に立った 写真提供:NHK交響楽団

1曲目はフランス出身の人気ヴィオリスト、アントワーヌ・タメスティをソリストに迎えてベルリオーズの交響曲「イタリアのハロルド」。ソリストがステージに登場しないままで、演奏が始まる。タメスティは第1楽章の主部に入る直前、舞台下手から忍び足で入場し、木管、打楽器の前あたりで弾き始める。ハープとの掛け合いではその脇に移動。楽章の後半でようやく指揮者横の定位置に立ち、ヴァイオリン・パートと活発なやり取りを展開。その後の楽章でも時にはヴィオラ・パートの後ろ、また時にはティンパニやテューバの近くへと何度も場所を変えてさまよい、各パートを挑発するかのように活発な音楽対話を喚起してみせた。こうしたことによって巡礼するハロルドの物語性を感じさせる交響詩のような音楽へとスケールアップしたように感じた。N響もパーヴォのタクトの下、俊敏なアンサンブルを繰り広げて、変化に富んだタメスティのソロに見事に応じ、最後は生き生きとしたフィナーレを構築してみせた。万雷の喝采にタメスティはJ.S.バッハの無伴奏チェロ組曲第1番ト長調のヴィオラ編曲版からプレリュードをアンコールした。

ソリストのアントワーヌ・タメスティは、何度も場所を変えてさまよい、活発な音楽対話を喚起した 写真提供:NHK交響楽団
ソリストのアントワーヌ・タメスティは、何度も場所を変えてさまよい、活発な音楽対話を喚起した 写真提供:NHK交響楽団

後半はプロコフィエフの交響曲第4番(改訂版)。首席指揮者時代同様、パーヴォが指揮するとN響はよく鳴る。第1楽章の序奏主題から冒頭の管楽器、続く弦楽器と力強く開放的な響きがホールにこだました。また、この日はオケ全体がステージ前方にセッティングされていた。大きく聴こえたのはそのせいもあったのかもしれないが、前へ出て演奏した方が断然よいと感じた。それは強い音もさることながら、弱音の細かいニュアンスがよりクリアに伝わってきたからだ。
パーヴォは「イタリアのハロルド」でもそうだったが、複数の声部が折り重なる箇所で一部を抑制して調和を保つのではなく、おのおのを能動的に弾かせることで、音楽の構造を立体的に明示し、そこに内在する対位法的なアンサンブルの妙味を存分に引き出していた。N響メンバーとのコンタクトも2年間のブランクを感じさせない緊密なもので、全体として力強い推進力を伴った鮮やかな演奏に仕上げ、終演後には盛大な喝采を集めていた。
(宮嶋 極)

プロコフィエフ「交響曲第4番」(改訂版)。パーヴォとN響は、力強い推進力を伴った鮮やかな演奏を聴かせた 写真提供:NHK交響楽団
プロコフィエフ「交響曲第4番」(改訂版)。パーヴォとN響は、力強い推進力を伴った鮮やかな演奏を聴かせた 写真提供:NHK交響楽団

公演データ

NHK交響楽団 第2034回 定期公演Aプログラム

4月12日(土)18:00 NHKホール

指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
ヴイオラ:アントワーヌ・タメスティ
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:長原 幸太

プログラム
ベルリオーズ:交響曲「イタリアのハロルド」
プロコフィエフ:交響曲第4番ハ長調Op.112(改訂版/1947年)

ソリスト・アンコール
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 第1番ト長調BWV1007 (ヴィオラ版)から「前奏曲」

他日公演:4月13日(日)14:00 NHKホール

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宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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