東京・春・音楽祭2025 リッカルド・ムーティ指揮 東京春祭オーケストラ演奏会

ムーティを中心に全楽員が一体となってエネルギーを放った圧巻の演奏

東京・春・音楽祭の柱であるリッカルド・ムーティが今年もお気に入りの東京春祭オーケストラを指揮して圧巻の演奏を披露した。
今年はムーティが初めて日本を訪れた1975年から50年の節目とあって、母国イタリアの作品を集めた特別なプログラムが組まれた。何が特別かというと、イタリア・オペラの巨匠であるムーティだが、近年はヴェルディの作品のみを指揮する機会がほとんどで、この日、プログラムに組まれたプッチーニやマスカーニらの作品を指揮するのは珍しいからである。

初来日から50年の節目を迎えたリッカルド・ムーティ (C)ToddRosenberg Photography by courtesy of riccardomutimusic.com
初来日から50年の節目を迎えたリッカルド・ムーティ (C)ToddRosenberg Photography by courtesy of riccardomutimusic.com

1曲目はヴェルディの「ナブッコ」序曲。〝行け、わが想(おも)いよ黄金の翼に乗って〟の旋律を深く歌いこみ、繊細なピアニッシモからエネルギーを次第に溜めていくように盛り上げていき、オケ全体が大きく鳴る箇所では躍動感あふれる音楽運びで、1曲目から聴衆を魅了した。

続く2曲目以降も小品ながら、作品の本質を突く表情付けによってオペラの全体像や物語のワンシーンが脳裏に浮かぶような説得力あふれる音楽を創出。「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲がこれほどまでに深みのある音楽だったことに驚きを禁じ得なかった。前半の締めくくりは、愛してやまないヴェルディ作品から「運命の力」序曲。細部にまでムーティの意思が行き届いたドラマティツクな演奏に、同じ東京文化会館で2000年9月に行われたミラノ・スカラ座との「運命の力」の名舞台が思い出された。

後半は弦楽器の美しい旋律が印象的なカタラーニの「コンテンプラツィオーネ」に続いてレスピーギの「ローマの松」。中間2曲では管楽器の旋律を支える弦セクションの和声を丁寧に整え作り出された美しい音場は実際の景色の中の松を見るかのよう。4曲目「アッピア街道の松」では常勝ローマ帝国軍が遠くから近づいてくることがリアルに伝わってくるような演奏。長いクレッシェンドを経て金管楽器のバンダ(別動隊)18人を加えた力強いフィナーレは圧巻のひと言に尽きた。

圧巻の演奏を聴かせたムーティと東京春祭オーケストラ
圧巻の演奏を聴かせたムーティと東京春祭オーケストラ

コンマスの郷古廉(N響第1コンマス)をはじめ若手腕利きプレイヤーで編成された東京春祭オケは高い技術力をベースにムーティの要求に俊敏に応え、指揮者の気迫を反映させた極めて燃焼度の高い演奏を繰り広げ、終演後には満員の聴衆から盛んなブラボーと大喝采を巻き起こした。最後に東京春祭実行委員会の鈴木幸一委員長が初来日から50年を記念して花束を贈呈すると、ムーティは満面の笑みを浮かべ右手を開いて「5」と示してみせた。
なお、同公演は12日(土)も15時から東京文化会館で行われる。
(宮嶋 極)

東京春祭実行委員会の鈴木幸一委員長が、初来日から50年を記念して、ムーティへ花束を贈呈した
東京春祭実行委員会の鈴木幸一委員長が、初来日から50年を記念して、ムーティへ花束を贈呈した

公演データ

東京・春・音楽祭2025

リッカルド・ムーティ指揮 東京春祭オーケストラ演奏会
4月11日(金)19:00 東京文化会館 大ホール

指揮:リッカルド・ムーティ
管弦楽:東京春祭オーケストラ
コンサートマスター:郷古 廉

プログラム
ヴェルディ:歌劇「ナブッコ」序曲
マスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲
レオンカヴァッロ:歌劇「道化師」間奏曲
ジョルダーノ:歌劇「フェドーラ」間奏曲
プッチーニ:歌劇「マノン・レスコー」間奏曲
ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲
カタラーニ:コンテンプラツィオーネ
レスピーギ:交響詩「ローマの松」

Picture of 宮嶋 極
宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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