沖澤の明快で研ぎ澄まされた指揮のもと、精度の高い演奏を繰り広げる
京都市交響楽団常任指揮者、沖澤のどかが、産休を終え、昨年7月以来、8カ月ぶりに京響定期演奏会に登場した。

まず、藤倉大の「ダブル協奏曲 ―ヴァイオリンとフルートのための」(オランダ公共放送局、京響など4団体による共同委嘱作品)が日本初演された。独奏は、ヴァイオリンの金川真弓とフルートのクレア・チェイス。チェイスは、フルート、ピッコロ、バス・フルートの3本を持ち替えて吹いた。曲は、ヴァイオリンとフルートの2分ほどの二重奏で始まる。その後、オーケストラが入り、鳥の声が模倣されたりもするが、作品には歌があり、ヴァイオリンもフルートもよく歌い、交歓する。その後、二人はロック的なノリの良い音楽も奏で、最後は、チェイスがバス・フルートに持ち替えて、静かに曲が締め括(くく)られた。金川の充実したヴァイオリンはいつもの通り。良い意味で、あっという間の約25分間だった。

後半はリヒャルト・シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」。京響が身の詰まった力感溢れる演奏を展開。と同時に、すべての音がよく作り込まれていて、どこをとっても(「英雄の戦場」のような荒々しい音楽でも)絶妙な音のバランスが保たれている。英雄が戦いに勝利し、冒頭の主題が再現されるところが非常に感動的であった。コンサートマスターの会田莉凡の強靭(きょうじん)なソロ、そしてリーダーシップは、特筆に値する。ホルンのソロも見事。

沖澤は近年、フランス系の音楽で素晴らしい成果をあげているが、この日の「英雄の生涯」では、京響からまさにドイツ的な音を引き出していた。そして、京響は、沖澤の明快で研ぎ澄まされた指揮に応え、国内トップ・レベルの精度の高い演奏を繰り広げた。
(山田治生)
公演データ
京都市交響楽団 第698回定期演奏会
3月15日(土)14:30京都コンサートホール 大ホール
指揮:沖澤 のどか(常任指揮者)
ヴァイオリン:金川 真弓
フルート:クレア・チェイス
管弦楽:京都市交響楽団
特別客演コンサートマスター:会田莉凡
プログラム
藤倉大:ダブル協奏曲 ―ヴァイオリンとフルートのための<日本初演>
(コレギウム・ムジクム・ヴィンタートゥール、オランダ公共放送局(NTR)、アンサンブル・レゾナンツ、京響による共同委嘱作品)
リヒャルト・シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」Op.40

やまだ・はるお
音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。