カーチュン・ウォン指揮 日本フィルハーモニー交響楽団 第768回東京定期演奏会

完全無欠にして自在 カーチュン・ウォン日本フィルのマーラー「交響曲第2番〝復活〟」

世の中に完璧かつ自由闊達(かったつ)なマーラー「交響曲第2番〝復活〟」があるとしたら、今夜のカーチュン・ウォン指揮日本フィルの演奏が該当するかもしれない。

首席指揮者のカーチュン・ウォンが指揮台に立った ©️山口敦
首席指揮者のカーチュン・ウォンが指揮台に立った ©️山口敦

ウォンは細やかな指揮で、強弱、音の増減、フレージング、表情記号などスコア通り細大漏らさず奏者に伝え、あたかも高解像度の画像を見るように克明にマーラーの意図と作品構造を描き出した。2年前、トランペット首席のオッタビアーノ・クリストーフォリにインタビューしたさい、ウォンがマーラーを指揮する姿はグラム単位まで正確に測るパティシエ(菓子職人)のようだと語ったが、言い得て妙だ。

それに加えて、時にアゴーギク(緩急の変化)を効かせ、独自のアクセントやポルタメントを導入、さらにはバンダを本体のオーケストラに合体させる試みまで行ったが、劇的な演奏とマッチして作為的には感じられず、新鮮な解釈として素直に受け入れられた。

克明にマーラーの意図と作品構造を描き出した ©️山口敦
克明にマーラーの意図と作品構造を描き出した ©️山口敦

瞠目(どうもく)する演奏の中でも、特に強く印象に残った箇所を挙げたい。
第1楽章は、冒頭のヴァイオリンとヴィオラのトレモロの激しさ、チェロとコントラバス各10台という低弦の第1主題の迫力に震撼(しんかん)。激烈にクレッシェンドして一気に下降、急停止する展開部最後の凄まじいこと。
第2楽章はウォンの細やかなタクトから生まれるヴァイオリンの優しさに満ちた表情とチェロの対位旋律の滑らかな響きに魅了された。
第3楽章スケルツォ頭のティンパニの強烈な打音の驚き。トリオの木管と金管の華やかな色彩感。
第5楽章は、地獄の門が開くと言われる小太鼓を始めとする打楽器の急激なクレッシェンドが衝撃的。〝復活〟の合唱が始まる前、全管弦楽が高揚した後、2階LA席とP席のドア後方から聞こえてくるバンダのホルンとトランペットは最後の審判の開始を告げるような威厳があった。

独唱を務めたメゾソプラノの清水華澄(左)とソプラノの吉田珠代(右)©️山口敦
独唱を務めたメゾソプラノの清水華澄(左)とソプラノの吉田珠代(右)©️山口敦

120名強という東京音楽大学の合唱は一体感があり、若さがもたらす声が清々しい。メゾソプラノの清水華澄が第4楽章の独唱を含め、いまひとつ精彩がなかったことは残念だが、2日目に期待。ソプラノの吉田珠代は好唱。
合唱とソプラノが〝お前は甦(よみがえ)るのだ〟〝お前の闘いとったものが神のみもとへ運ぶだろう〟と歌う最大のクライマックスでは、バンダの金管もオルガン前で吹奏、ホールを揺るがすほどの圧倒的な迫力で、葛藤と苦悩の末につかんだ「復活」を高らかに歌い上げた。
(長谷川京介)

※取材は3月7日(金)の公演

公演データ

日本フィルハーモニー交響楽団 第768回東京定期演奏会

3月7日(金)19:00、8日(土)14:00サントリーホール

指揮:カーチュン・ウォン(首席指揮者)
ソプラノ:吉田珠代
メゾソプラノ:清水華澄
合唱:東京音楽大学
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:田野倉雅秋

プログラム
マーラー:交響曲第2番「復活」ハ短調

Picture of 長谷川京介
長谷川京介

はせがわ・きょうすけ

ソニー・ミュージックのプロデューサーとして、クラシックを中心に多ジャンルにわたるCDの企画・編成を担当。退職後は音楽評論家として、雑誌「音楽の友」「ぶらあぼ」などにコンサート評や記事を書くとともに、プログラムやCDの解説を執筆。ブログ「ベイのコンサート日記」でも知られる。

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