沖澤のどか指揮 オーケストラ・アンサンブル金沢 第41回東京公演

チェンバー・オーケストラとしての面目を発揮した演奏会

オーケストラ・アンサンブル金沢恒例の東京公演。今回は演奏に先立ち、同団のアーティスティック・リーダー・広上淳一と専務理事・表正人による舞台挨拶があった。広上は、震災に遭った能登地方で同団と積極的に訪問演奏を展開したことが評価され、令和6年度芸術選奨文部科学大臣賞(芸術振興部門)を受賞したばかり。能登の状況と同団の姿勢について、両氏が静かに、熱く語った。
この日、指揮台に上がったのはしかし、沖澤のどかである。彼女の棒のもと、同団はチェンバー・オーケストラとしての面目を大いに発揮した。たんにコントラバス2挺のサイズで通したから、ということではない。巧さゆえにと言うべきか、シンフォニー・オーケストラかと見紛(まご)うことも多い楽団なので、これは特筆すべき仕事だ。

指揮者の沖澤のどか 写真提供:オーケストラ・アンサンブル金沢
指揮者の沖澤のどか 写真提供:オーケストラ・アンサンブル金沢

最初のプロコフィエフ「古典交響曲」からして、それは顕著であった。注意深く差異化されたダイナミクス。曖昧さを排したアーティキュレーション。木管楽器の存在感が抜群で、第4楽章の展開部など、先刻はあっちから、今度はこっちから跳び上がる面白さ。弦楽器を抑えたのが効いているわけだが、それでいて彼らの動きもちゃんと聞こえる。

モーツァルトのピアノ協奏曲第24番では、ティンパニをクラシカル・タイプにチェンジ。だがこれを、ピリオド楽団によくあるように、無闇に強打させたりはしない。「ハ短調=ドラマチック」という陳腐を避けた、そのウェル・バランスドな管弦楽に導かれ、忽然(こつぜん)と現れた牛田智大のピアノがまた素晴らしい。
前打音で跳ね上がったト音が、ふっと宙を漂い、息を取って次の下行音に落ちてゆく。それも自然と、重力に従って。これでもう、音楽のピントが合うというものだ。同一フレーズのくり返しも、上下するだけの音階も、決して単調にならない。第2楽章の民謡調主題など、気楽にやってもよさそうなところまで、彼はじっくりと磨き上げる。だが、沖澤の棒ともども抑揚が正しいので、息詰まることがない。本当に美しい24番であった。

ピアノ独奏の牛田智大は、じっくりと磨き上げられた音を聴かせた 写真提供:オーケストラ・アンサンブル金沢
ピアノ独奏の牛田智大は、じっくりと磨き上げられた音を聴かせた 写真提供:オーケストラ・アンサンブル金沢

最後、オネゲルの交響曲第4番では、室内楽的性格がより強まったと言えるだろう。なにしろ、ファゴットを低音弦とではなくピアノと重ねるような、特異な曲である。それが出現する第2楽章など、沖澤のふんわりとしたアインザッツそのままに、ギラつく諧謔(かいぎゃく)味はなかったけれど、この丁寧さが彼女の持ち味なのだろう。
終楽章。喧噪の後にくる静かな弦楽は、ヴィブラートを抑え、まるで陽炎のよう。そうして、Tschüß!(それじゃ)と言うかのように終わったのだった。

(舩木篤也)

公演データ

オーケストラ・アンサンブル金沢 第41回東京公演

3月6日(木)18:30サントリーホール

指揮:沖澤 のどか
ピアノ:牛田 智大
管弦楽:オーケストラ・アンサンブル金沢

プログラム
プロコフィエフ:古典交響曲 作品25
モーツァルト:ピアノ協奏曲 第24番 ハ短調 K.491
オネゲル:交響曲 第4番「バーゼルの喜び」

ソリスト・アンコール
吉松 隆:ピアノ・フォリオ…消えたプレイアードによせて

アンコール
芥川也寸志:トリプティークより第2楽章

Picture of 舩木 篤也
舩木 篤也

ふなき・あつや

1967年生まれ。広島大学、東京大学大学院、ブレーメン大学に学ぶ。19世紀ドイツを中心テーマに、「読売新聞」で演奏評、NHK-FMで音楽番組の解説を担当するほか、雑誌等でも執筆。東京藝術大学ほかではドイツ語講師を務める。共著に『魅惑のオペラ・ニーベルングの指環』(小学館)、共訳書に『アドルノ 音楽・メディア論』(平凡社)など。

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