ブルックナーの神髄に迫るツァグロゼク読響の至高の名演
6年ぶりに読響に登場した巨匠ローター・ツァグロゼクが、ブルックナー:交響曲第5番で記憶に残る名演を成し遂げた。

第1楽章冒頭、チェロとコントラバスのピッツィカートの深み、金管の神々しいコラール、畏怖を覚える強烈な総奏までの導入部から直ちにブルックナーの深遠な世界に引き込まれる。続いて始まる清らかなヴィオラとチェロによる第1主題、神秘的なピッツィカートの第2主題、木管の温かな第3主題から成る提示部など、ツァグロゼク読響の演奏は全てが澄み切っていて純粋である点が大きな特長だ。
展開部はブルックナー特有の緻密な対位法が強靭な響きで明解に描かれた。
第2楽章アダージョは深みあるピッツィカートの上でオーボエが密やかに第1主題を奏でる。第2主題を歌う弦のハーモニーも豊かで清らか。
第3楽章スケルツォは鋭く重い響きと共に速めのテンポで進む。舞曲風の中間部を挟んだスケルツォの再現は、嵐が吹き荒れるように激しい。トリオは木管とホルンが柔らかく対話する。
第4楽章第2主題の天上の世界を思わせる清らかな弦の響きを聴くに至り、〝ブルックナーがこの作品に込めたものは神への賛美と感謝である〟というツァグロゼクのメッセージが伝わってくる気がした。そう考えると、第1楽章冒頭から終楽章に通底する清透さ、純粋さのすべてに納得が行く。

金管の厳しいまでの第3主題は神の怒りにも聞こえる。休止後の金管のコラールはやわらかくゆったりと吹奏され、弦がそれを繰り返す。それらは会衆の祈りにも思えた。
コラール主題と第1主題が二重フーガとなって頂点に向かう過程は、主に祝福された人々の喜びが広がるようでもあった。
第1楽章第1主題と第4楽章第1主題が絡み、そこにコラール主題が加わる壮大なコーダの対位法の明晰さは驚異的であり、神が降臨したかのような威厳と歓喜に溢れた。

手もとの時計による演奏時間は曲間を含み約78分。ツァグロゼクの両手が下りるまでの完全な静寂、その後の怒涛のようなブラヴォーと拍手。聴衆の集中も素晴らしかった。
(長谷川京介)
公演データ
読売日本交響楽団第645回定期演奏会
2月7日(金)19:00サントリーホール
指揮:ローター・ツァグロゼク
特別客演コンサートマスター:日下紗矢子
プログラム
ブルックナー:交響曲第5番 変ロ長調WAB105(ノヴァーク版)

はせがわ・きょうすけ
ソニー・ミュージックのプロデューサーとして、クラシックを中心に多ジャンルにわたるCDの企画・編成を担当。退職後は音楽評論家として、雑誌「音楽の友」「ぶらあぼ」などにコンサート評や記事を書くとともに、プログラムやCDの解説を執筆。ブログ「ベイのコンサート日記」でも知られる。