「今生まれ出るかのような音楽」に魅せられた、生気漲る一夜
イザベル・ファウストによる「モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲全曲演奏会」の2日目。ジョヴァンニ・アントニーニ指揮/イル・ジャルディーノ・アルモニコとの共演で、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第2番、グルックのバレエ音楽「ドン・ジュアンあるいは石の宴」、モーツァルトのロンドK373、同じくヴァイオリン協奏曲第5番が演奏された。
本公演の肝はむろん、古楽アンサンブル=アントニーニ&イル・ジャルディーノ・アルモニコとの共演。ポイントは、ピリオド楽器&奏法、そしてアグレッシブな音楽だ。今回ファウストは、ストラディヴァリウス「スリーピング・ビューティ」にガット弦を張ってクラシカル弓で演奏した。中でもガット弦の効果は大きい。華麗さこそないが、柔らかく温かな音色が古雅にしてきめ細かな音楽を導く。当然バックとの同質性も高い。そしてバックのアグレッシブさは物凄く、ザクザクとした激烈な響きが活力十分に躍動する。
ファウストは、最初の協奏曲第2番の序奏等でバックのパートを共に奏で、音と音楽の同質性を示す。だがソロになると表情細やかな音楽をクッキリと奏でる。その塩梅はまさに絶妙。巧みに一体化したこの演奏を聴いていると、「モーツァルト当時はこうだったのかもしれない」と思わずにはおれない。
グルックは、イル・ジャルディーノ~の活気に満ちたサウンドで、ドン・ジュアンの物語が劇的に表現される。モーツァルトのロンドでは舞曲風のテイストが表出されたのが驚きだ。
協奏曲第5番は、第2楽章の遅い音楽の中に脈動感を湛えている点が光る。第3楽章は、歯切れの良い進行の中で自在のソロが展開され、トルコ風の場面の迫真性も際立っている。この曲ではまるでオペラの一場面のような感覚をおぼえた。加えて、ニコラ・マッテイスSrとハイドンの凝ったアンコールも耳を喜ばせた。
「今生まれ出るかのような音楽」に魅せられた、生気漲(みなぎ)る一夜。
(柴田克彦)
公演データ
イザベル・ファウスト モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲全曲演奏会
12月11日(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
ヴァイオリン:イザベル・ファウスト
指揮:ジョヴァンニ・アントニーニ
古楽アンサンブル:イル・ジャルディーノ・アルモニコ
プログラム
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第2番ニ長調K211
グルック:バレエ音楽「ドン・ジュアンあるいは石の宴」
モーツァルト:ロンド ハ長調K373
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番イ長調 K219「トルコ風」
ソリスト・アンコール
ニコラ・マッテイスSr:ヴァイオリンのためのエア集より「パッサッジョ・ロット」
アンコール
ハイドン:交響曲第44番ホ短調Hob.I:44「悲しみ」第4楽章
しばた・かつひこ
音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。