シェーンベルク・イヤーに捧げる圧巻の交響詩「ペレアスとメリザンド」
いまや東京都交響楽団の終身名誉指揮者にある小泉和裕は近年、如実に円熟を深めている。この日も、シェーンベルク生誕150周年にふさわしい交響詩「ペレアスとメリザンド」の熱演で客席を圧倒した。
プログラム前半はモーツァルトのディヴェルティメント第17番ニ長調。新旧のウィーン楽派という対比に加え、小泉の師匠である帝王カラヤンが両者をレパートリーにしていた来歴を想起させる。実際カラヤンは1974年の始め、2回の近接した演奏会で1曲ずつ取り上げており、何らかの連関を感じていたのかもしれない。
小泉は第1ヴァイオリン10人の小ぶりな編成で旋律をたっぷり歌わせ、ヴィブラートを生かす伝統的な様式に則(のっと)った。滑らかなフレージングが作る流面形は、やはりカラヤン譲りの流麗なスタイルを思わせる。
そんな自然体の中にも滋味がにじむのが最近の小泉流。第2楽章・アンダンテでは、ニ短調の主題から発展する6つの変奏をノーブルに扱いつつ、芯の通ったドラマを示し、第3楽章・メヌエットの優美な3拍子と立体的な対比を作り上げた。第4楽章・アダージョでは、都響の優れたアンサンブルを生かしてヴェルヴェットのような質感を引き出した。
爛熟した後期ロマン派の味わいが濃厚な交響詩「ペレアスとメリザンド」を、複数の楽団が一斉に取り上げたのは、シェーンベルク・イヤーならではの出来事だろう。小泉は大編成の錯綜したスコアを暗譜で振り通し、作品に対する深い共感を表した。
ふくよかな流動感をたたえた丁寧なドラマ運びを心がけ、曲を手の内に収めた安定感が高い。特に、愛の告白からペレアスの死に至る第3部の叙情的な部分では温かな情感を通わせ、甘美なうねりがひたひたと迫った。
クライマックスでは都響のパワーがさく裂し、随所で威力を発揮した。頻出するソロを好演したイングリッシュホルン(南方総子)や、漆黒の音色を繰り出したクラリネット群など、都響のソリスティックな魅力も満喫させた。
(深瀬満)
公演データ
東京都交響楽団 第1011回定期演奏会Bシリーズ
11月20日(水)19:00サントリーホール大ホール
指揮:小泉和裕
管弦楽:東京都交響楽団
プログラム
モーツァルト:ディヴェルティメント第17番 ニ長調 K.334 (320b)
シェーンベルク:交響詩「ペレアスとメリザンド」Op.5
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。