ルルーの音楽性の高さが明示された興趣溢れる夕べ
日本フィルの11月定期は、フランソワ・ルルーの指揮とオーボエで、ラフの「シンフォニエッタ」、メンデルスゾーンの「無言歌集」より、同じく交響曲第3番「スコットランド」が披露された。
ラフの作品は木管十重奏。実質的には室内楽曲で、曲調も19世紀末のハルモニームジークと近代フランスの管楽作品の中間といったテイストだ。ルルーはオーボエ奏者に徹しながらリードする形。突出する場面も多いが、第2、4楽章の軽やかな表現などアンサンブルとしても随所で耳を楽しませた。まずは、レアな曲とオーケストラ公演では稀(まれ)な管楽器室内楽の貴重な生体験を満喫。
「無言歌集」は、全48曲中の5曲がドイツの作・編曲家タルクマンのアレンジによるオーボエ&弦楽合奏版(10型)で演奏された。今度はルルーの「吹き振り」。最初のOp.19-1が始まるとすぐに、玲瓏(れいろう)にして豊麗な彼の妙技と弦とのコラボの新鮮味に魅了される。表現は実に細やか。中でも「ヴェニスの舟歌」のダイナミクスと表情の幅広さが素晴らしい。ここは、巨匠の名人芸と巧みな選曲&編曲によって、新たな音楽世界発見の喜びを得たとの思いしきりだ。
「スコットランド」は、通常通りルルーが指揮し、各楽章の特徴明確にして清新な音楽が展開された。この曲もダイナミクスや表情が極めて細やかでニュアンスに富んでおり、まるで自身のオーボエ演奏を管弦楽に移したかのよう。全体に室内楽的な趣がまさり、14型(コントラバスは7本)の弦楽器も、〝あえかな重層感〟を求めて増強されたと思えるほどだ。第1楽章がイメージよりも弱い音で始まった点(スコア=旧全集版を見ると確かに指定はp)、終結の伸ばしの最後にティンパニがクレッシェンドした(これはスコアにはない)点も印象的だった。
全体にルルーの音楽性の高さが明示された興趣溢れる夕べ。
(柴田克彦)
※取材は11月1日(金)の公演
公演データ
日本フィルハーモニー交響楽団 第765回東京定期演奏会
11月1日(金)19:00、2日(土)14:00 サントリーホール
指揮・オーボエ:フランソワ・ルルー
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団
プログラム
ラフ:シンフォニエッタ ヘ長調Op.188
メンデルスゾーン(タルクマン編曲):「無言歌集」より
メンデルスゾーン:交響曲第3番「スコットランド」イ短調Op.56
オーボエ・アンコール
メンデルスゾーン(タルクマン編):「無言歌集」より第6巻(Op.67)第6曲〝子守唄〟
しばた・かつひこ
音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。