Music Fusion in Kyoto音楽祭 ベートーヴェン・マラソン

京都で新しい音楽祭が始動! 古都・長岡京で楽聖ベートーヴェンと向き合う

京都府長岡京記念文化会館で開催された「ベートーヴェン・マラソン」の出演者たち ©︎Naoki Noda
京都府長岡京記念文化会館で開催された「ベートーヴェン・マラソン」の出演者たち ©︎Naoki Noda

京都府長岡京市で、楽聖ベートーヴェンの音楽にどっぷりと浸るコンサートが開催された。
Music Fusion in Kyoto音楽祭は、ヴァイオリニストの豊嶋泰嗣が音楽監督を務める新しい音楽の祭典。来年秋の本格開催に先駆け、一流の音楽家たちによる室内楽コンサートが京都府内の各地で行われた。そのフィナーレを飾ったのが京都府長岡京記念文化会館で開催された「ベートーヴェン・マラソン」だ。

1部は清水和音によるベートーヴェンの3大ピアノ・ソナタ ©︎Naoki Noda
1部は清水和音によるベートーヴェンの3大ピアノ・ソナタ ©︎Naoki Noda

1部は3大ピアノ・ソナタ。「悲愴」「月光」「熱情」の中で、最も会場のボルテージが上がったのが「熱情」ソナタだった。
ところどころに現れる「運命」のモティーフは、ベートーヴェンが苦難に直面しながらも、光の方へ向かっていこうとする闘志を思わせた。最終楽章のハンガリー狂詩曲風のコーダは圧巻。清水和音は、息もつかせぬスピードと強音で、1804~05年の作曲当時、エラール製ピアノで最高音だったド(c4)から、最低音のファ(F1)までをダイナミックに奏でた。
アンコールは、ショパンの英雄ポロネーズ。意外な選曲のように思われたが、この熱情ソナタと同時期に交響曲第3番「英雄」ほか、力強いヒロイックな作品が作曲されたことを考えれば、親和性があったといえる。

関西弦楽四重奏団による「ラズモフスキー」 ©︎Naoki Noda
関西弦楽四重奏団による「ラズモフスキー」 ©︎Naoki Noda

2部は弦楽四重奏曲「ラズモフスキー」(作品59-1)と「セリオーソ」(作品95)。ベートーヴェンの〝創作意欲の塊〟のような長大な「ラズモフスキー」を、関西弦楽四重奏団がシンフォニックに。対して〝厳粛に、真面目に〟の意をもつ「セリオーソ」をクァルテット・インダコが、切れ味するどく演奏した。まったく異なる両者の対比が興味深い。

クァルテット・インダコによる「セリオーソ」 ©︎Naoki Noda
クァルテット・インダコによる「セリオーソ」 ©︎Naoki Noda

第3部、ヴァイオリン・ソナタ第5番「春」の第1楽章冒頭で、豊嶋は清流のように爽やかな第1主題を奏でた。
続くチェロ・ソナタ第3番は、壮大に始まる上村昇のチェロの旋律に息をのんだ。ピアノとチェロは独立し、互いによく歌っていた。

プログラムのラストはピアノ三重奏曲 第7番「大公」 ©︎Naoki Noda
プログラムのラストはピアノ三重奏曲 第7番「大公」 ©︎Naoki Noda

いよいよラストはピアノ三重奏曲第7番「大公」。清水のおおらかな独奏ではじまり、幸福で彩られる曲の世界観を一気に形づくる。ピアノのスタッカートと弦楽器のピッツィカートの愛らしい交歓に心が満たされた。

カーテンコールでは、豊嶋が出演者全員とハイタッチする場面も。新しい音楽祭の幸先の良いスタートをきることができ、健闘を讃え合っているようだった。
(野崎裕美)

公演データ

Music Fusion in Kyoto音楽祭 ベートーヴェン・マラソン

10月19日(土)11:00  京都府長岡京記念文化会館

ヴァイオリン:豊嶋 泰嗣
チェロ:上村 昇
ピアノ:清水 和音
関西弦楽四重奏団
クァルテット・インダコ

プログラム

第1部
ピアノ・ソナタ第8番ハ短調Op.13「悲愴」
ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調Op.27-2「月光」
ピアノ・ソナタ第23番ヘ短調Op.57「熱情」
アンコール
ショパン:ポロネーズ第6番変イ長調「英雄」

第2部
弦楽四重奏曲第7番ヘ長調 Op.59-1「ラズモフスキー第1番」
弦楽四重奏曲第11番ヘ短調 Op.95「セリオーソ」

第3部
ヴァイオリン・ソナタ第5番 ヘ長調 Op.24「春」
チェロ・ソナタ第3番イ長調 Op.69
ピアノ三重奏曲第7番変ロ長調 Op.97「大公」

Picture of 野崎 裕美
野崎 裕美

のざき・ひろみ

クラシック音楽専門誌「音楽の友」ほか音楽誌の編集者を経て、現在はフリーランスのライター・編集者として活動。毎日クラシックナビでは速リポ等を担当し、クラシック音楽のコンサートに通う人が増えるような情報発信に日々情熱を燃やす。

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