東京二期会オペラ劇場 モーツァルト「コジ・ファン・トゥッテ」

欧州のテイストが満載!上品なユーモアとオーケストラの生きの良い音色で魅せるオペラ

新国立劇場オペラパレスは9月のこの時期、民間団体との共催公演に充てられる。ことしは東京二期会の主催で、モーツァルトの「コジ・ファン・トゥッテ」が選ばれた。シャンゼリゼ劇場など4カ所による共同制作で、パリで2022年にプレミエが行われた。

目玉はフランスの人気演出家、ロラン・ペリーによる演出・衣裳だ。彼は同じ新国立劇場のヘンデル「ジュリオ・チェーザレ」(2022年10月)で評判を取るなど、洒脱なドラマ感覚が日本でも知られる。
今回の「コジ」では設定を現代の録音スタジオとし、セッション収録に参加した歌手たちが、次第に役柄と同化してファンタジーを繰り広げる展開とした。同様の趣向は2011年夏のザルツブルク音楽祭で上演されたR・シュトラウス「影のない女」(指揮=クリスティアン・ティーレマン、演出=クリストフ・ロイ)でも見られたが、ロラン・ペリーは作品の性格に見合った上品なユーモアをまぶして、一段と洗練された舞台に仕上げた。

舞台を現代の録音スタジオに設定したロラン・ペリー演出の「コジ・ファン・トゥッテ」 写真提供:公益財団法人東京二期会 撮影:寺司正彦
舞台を現代の録音スタジオに設定したロラン・ペリー演出の「コジ・ファン・トゥッテ」 写真提供:公益財団法人東京二期会 撮影:寺司正彦

木製のくすんだ吸音材が壁面に並ぶスタジオは古ぼけてみえるが、こうした無骨で地味な装置や美術こそ、ドイツやフランスの歌劇場でよく見る作り。「ジュリオ・チェーザレ」の設定も美術館の収蔵庫だった。そこで演劇的な細かい所作を付けられた登場人物が生き生きと、時にはユーモラスに動き回り、心理状況を明らかにする。音楽との密接なマッチングにも目を見張る。

歌手陣は、息の合ったアンサンブルを披露した 写真提供:公益財団法人東京二期会 撮影:寺司正彦
歌手陣は、息の合ったアンサンブルを披露した 写真提供:公益財団法人東京二期会 撮影:寺司正彦

主役級の歌手6人は、各々のキャラクターが引き立つ組み合わせが選ばれ、息の合ったアンサンブルを形成。初日のキャストでは、姉フィオルディリージ役の種谷典子が、凜とした気品や張りのある声質、弱音の丁寧なコントロールで長大なアリアをこなし、ひときわ大きな拍手を浴びた。
クリスティアン・アルミンクが指揮する新日本フィルは、弦楽器のヴィブラートを抑制した生きの良い音色を生かして、きびきびと反応が早い合奏で小気味よく全体をまとめた。

欧州のテイストを満載したこの舞台、三重、岡山、山形で巡回公演が予定されている。

(深瀬満)

 

公演データ

東京二期会オペラ劇場 モーツァルト「コジ・ファン・トゥッテ」(新制作)
オペラ全2幕 日本語および英語字幕付原語(イタリア語)上演

9月5日(木)18:00新国立劇場 オペラパレス

指揮:クリスティアン・アルミンク
演出・衣裳:ロラン・ペリー

フィオルディリージ:種谷典子
ドラベッラ:藤井麻美
グリエルモ:宮下嘉彦
フェランド:糸賀修平
デスピーナ:九嶋香奈枝
ドン・アルフォンソ:河野鉄平
合唱:二期会合唱団、新国立劇場合唱団、藤原歌劇団合唱部
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

その他の公演日程や出演者等、データの詳細は東京二期会ホームページをご参照ください。
https://nikikai.jp/lineup/cosi_fan_tutte2024/

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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