大野和士指揮 東京都交響楽団 第1007回定期演奏会Aシリーズ

感覚的に磨き抜かれた流麗なブルックナー

ことしはブルックナーの生誕200周年。その誕生日である9月4日の都響定期演奏会で、最も人気が高い作品のひとつである交響曲第7番ホ長調を待ちかねたように取り上げ、ブルックナー・イヤーを祝うとは、大野和士音楽監督のセンスを示す粋な計らいだろう。

ブルックナー・イヤーに満を持して「交響曲第7番」を取り上げた大野和士©Rikimaru Hotta/東京都交響楽団提供
ブルックナー・イヤーに満を持して「交響曲第7番」を取り上げた大野和士©Rikimaru Hotta/東京都交響楽団提供

コンサート前半では、英国のポール・ルイスを独奏に迎え、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番ハ短調を披露した。このピアニストは、虚飾を排した実直な音楽作りで評価の高い実力者。くもりのない明確なタッチを駆使して、格調が高いベートーヴェン像を示した。透徹した叙情を醸す第2楽章、決して力で押し切らない懐の深さをみせた終楽章と、本格派らしいアプローチで魅了した。大野はシンフォニックな厚みあるバックで支えた。
泡立つような躍動感が湧き出したアンコールのシューベルト(ピアノ・ソナタ第21番の3楽章)が、えも言われぬ幸福感を残した。

ピアノ独奏のポール・ルイスは、格調高いベートーヴェン像を示した©Rikimaru Hotta/東京都交響楽団提供
ピアノ独奏のポール・ルイスは、格調高いベートーヴェン像を示した©Rikimaru Hotta/東京都交響楽団提供

大野&都響はシーズン始めの4月定期演奏会でも、ブルックナーの交響曲第3番を組んでいた。今回の第7番はノヴァーク版使用とのみ明記され、ブルックナー作品につきもののエディションの問題には深入りしないスタンス。たっぷり旋律をうたわせる濃厚な歌謡性と、流動感の強いしなやかな運びとが相まった、流麗なブルックナーになった。荘厳な宗教性よりも、感覚的に磨き抜かれた解釈と言ってもいい。
4つの楽章がぴったり1時間で収まる、よどみのないテンポ設定は一貫しており、第1楽章から都響自慢の弦セクションの威力を前面に出していく。ワーグナー追悼の意が込められた第2楽章も無用に粘らず、流れよく約19分で終了。クライマックスでは版の通り、ティンパニ+シンバル+トライアングルが効果を上げた。
ダイナミックな運動性を強調した第3楽章、弦の各パートが雄弁に主張する終楽章と続いて、壮健なエンディングで記念イヤーのお祝いを結んだ。

(深瀬満)

公演データ

東京都交響楽団 第1007回定期演奏会Aシリーズ

9月4日(水)19:00東京文化会館

指揮:大野和士
ピアノ:ポール・ルイス
管弦楽:東京都交響楽団

プログラム
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番 ハ短調 Op.37
ブルックナー:交響曲第7番 ホ長調 WAB107(ノヴァーク版)

ソリストアンコール
シューベルト :ピアノ・ソナタ 第21番 変ロ長調 D.960より 第3楽章

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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