フェス初日を彩った結成50年のアルディッティ弦楽四重奏団による東西の重要作品を並べた重量級の公演
現代音楽の祭典、サントリーホールのサマーフェスティバル2024は今回、プロデューサーに英国のアーヴィン・アルディッティを招いた。彼が創設し、現代室内楽の泰斗として果敢な挑戦を続けてきたアルディッティ弦楽四重奏団は、今年なんと結成50周年。そんなレジェンドによる室内楽コンサート3回とオーケストラ・プロを組む、至れり尽くせりの構成は、やはり歴史ある同フェスならではだろう。
フェス初日は室内楽コンサートの初回。武満徹からヘルムート・ラッヘンマンまで東西の重要作を並べ、細川俊夫への委嘱新作の日本初演と、重量級のしつらえになった。
前半は武満の定番「ア・ウェイ・ア・ローン」で幕開け。彼らは武満が初めて日本に呼び、絶大な信頼関係を結んだといい、この曲の欧州初演も行った。甘美な感傷に陥らない辛口の高解像度型だが、血の通った温かみをどこか残すのは、深い共感が成せる技だろう。同団のために書かれた最初の作品というジョナサン・ハーヴェイの弦楽四重奏曲第1番では、息詰まるような緊張感のなかにも自然な呼吸を醸して、初演者の貫禄をみせた。
細川俊夫の「オレクシス」は同団50周年を記念して同ホールなどが作曲を委嘱。ピアノの北村朋幹を共演に想定したピアノ五重奏曲で、ことし3月にベルリンで両者が世界初演したばかり。上昇下降を繰り返して渦巻く弦楽に即応して、北村はデリケートな音色やタッチを全開にし、フレキシブルかつ、まろやかな奏風が冴え渡った。普段から現代もので鍛えた鋭敏なセンスが光った。
後半のラッヘンマン弦楽四重奏曲第3番「グリド」は特殊な奏法のオンパレード。微細な音色や響きの妙をたっぷり味わわせて、聴き手を一気に引きずり込んだ。その強大な磁場の吸引力は、同団の圧倒的な蓄積を雄弁に物語った。
彼らの初演曲を中心とした貴重なプログラムは、あと3回も体験できる。
(深瀬満)
公演データ
サントリーホール サマーフェスティバル 2024
ザ・プロデューサー・シリーズ アーヴィン・アルディッティがひらく
室内楽コンサート 1
8月22日(木)19:00 サントリーホール ブルーローズ
弦楽四重奏:アルディッティ弦楽四重奏団
第1ヴァイオリン:アーヴィン・アルディッティ
第2ヴァイオリン:アショット・サルキシャン
ヴィオラ:ラルフ・エーラース
チェロ:ルーカス・フェルス
ピアノ:北村朋幹
武満徹:「ア・ウェイ・ア・ローン」弦楽四重奏のための(1980)
ジョナサン・ハーヴェイ:弦楽四重奏曲第1番(1977)
細川俊夫:『オレクシス』ピアノと弦楽四重奏のための(2023)[日本初演 サントリーホール、アルディッティ弦楽四重奏団委嘱]
ヘルムート・ラッヘンマン:弦楽四重奏曲第3番「グリド」(2000/01)
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。