ダン・エッティンガー指揮 東京フィルハーモニー交響楽団 第1003回サントリー定期シリーズ

エッティンガーの手腕が光った一糸乱れぬ輝かしいアンサンブル

東京フィルの桂冠指揮者、ダン・エッティンガー。彼が指揮する演奏は、これまで海外の歌劇場で聴いたことも多く、いつも楽曲を構築的に表現しながら、存分に歌わせる。この演奏会でも同様だった。

東京フィル桂冠指揮者のダン・エッティンガー(写真は7月24日東京オペラシティで行われた同演目の公演より)(C)藤本崇
東京フィル桂冠指揮者のダン・エッティンガー(写真は7月24日東京オペラシティで行われた同演目の公演より)(C)藤本崇

モーツァルトのピアノ協奏曲第20番は、元来が悲劇的な力強さがあふれる曲である。エッティンガーは弦からも木管群からも鋭い響きを引き出し、強いメリハリをつけながら、苦悩にも似た表情を引き出していた。一方、ピアノの阪田知樹は、ある意味、オーケストラとは対照的に、澄んだ音を非常に端正に響かせる。それなのに、エッジの利いたオーケストラとの相性が、不思議なほどいいのだ。構築的な音楽づくりだからこそ純粋なピアノが映えるとも、悲劇的な世界に射す光明のようだともいえようか。異なるアプローチの両者が、見事に支え合った。

阪田はアンコールでドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」を弾いた。モーツァルトで聴かせた透明な音色に、この曲はおあつらえ向きだった。

モーツァルト「ピアノ協奏曲第20番」で、オーケストラとは対照的に、澄んだ音を響かせた阪田(写真は7月24日東京オペラシティで行われた同演目の公演より)(C)藤本崇
モーツァルト「ピアノ協奏曲第20番」で、オーケストラとは対照的に、澄んだ音を響かせた阪田(写真は7月24日東京オペラシティで行われた同演目の公演より)(C)藤本崇

後半はブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」。これがエッティンガーの力なのだろう。楽曲はその構造を浮かび上がらせながら、鮮やかに歌い続け、弦楽器も木管も金管も終始まったく乱れることなく、見事なアンサンブルを聴かせた。

まず、冒頭のホルンの性格で堂々たる響きに、聴く側の集中力が呼び起こされた。その後の全合奏は厳かな伽藍のようで、コラール風の楽句の格調高いこと。また、第3楽章のスケルツォでは輝かしいアンサンブルを聴かせた。全体に縦のラインが際立つエッジの利いた音楽でありながら、肩の力は抜けていて、歌うように流れていくから心地よい。高い集中力は第4楽章のコーダまで途切れず、そこではデュナーミクが強調され、堂々と輝かしく締めくくられた。(香原斗志)

公演データ

東京フィルハーモニー交響楽団 第1003回サントリー定期シリーズ 

7月29日(月)19:00サントリーホール 大ホール

指揮:ダン・エッティンガー(桂冠指揮者)
ピアノ:阪田知樹
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

プログラム
モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番二短調 K. 466
ブルックナー:交響曲第4番変ホ長調 WAB 104「ロマンティック」(ノヴァーク版第2稿)

ソリスト・アンコール
ドビュッシー:前奏曲集第1巻より第8曲「亜麻色の髪の乙女」

Picture of 香原斗志
香原斗志

かはら・とし

音楽評論家、オペラ評論家。オペラなど声楽作品を中心に、クラシック音楽全般について執筆。歌唱の正確な分析に定評がある。著書に「イタリア・オペラを疑え!」「魅惑のオペラ歌手50:歌声のカタログ」(共にアルテスパブリッシング)など。「モーストリークラシック」誌に「知れば知るほどオペラの世界」を連載中。歴史評論家の顔も持ち、新刊に「教養としての日本の城」(平凡社新書)がある。

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