2人のヴィルトゥオーゾがエキサイティングに聴かせた〝ベートーヴェンの進化〟
清水和音と三浦文彰が取り組むベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会シリーズの2回目。今年2月の初回(第1番、第2番、第4番、第5番)で日本のピアノ界を牽(けん)引する清水と30歳以上年が離れている三浦のデュオを聴き、気持ち良いほど拮抗(きっこう)する2人の音楽に魅了された。
今回のプログラムは第3番、第6番、第7番。わずか3、4年の間に作曲されたこれらの作品がその内容において、ベートーヴェンの進化を如実に表しているのを2人の演奏から強く感じることができた。
第3番は華やかなピアノの分散和音で始まり、ピアノにヴァイオリンを伴ったソナタのように始まるが、清水のピアノの美音にのびのびと旋律を絡める三浦のヴァイオリンが、室内楽の楽しみを惜しみなく披露する。第3楽章の転調のたびに音色を変化させる清水のピアノが、疾走するだけでないアレグロに味わいを増した。
続く第6番は明るさの中にも憂いを感じる曲想に三浦のヴァイオリンからより繊細な響きが聴こえてくる。第2楽章のアダージョは単音にピアノもヴァイオリンもこの上ない感情を込めて歌う。第3楽章の6つの変奏を聴くと、ベートーヴェンの創作のアイディアが溢(あふ)れ出ているのが2人の演奏から発せられ、主客入れ替わる音楽の展開に興奮する。第6変奏でピアノが紡ぐメロディは天国的な美しさだった。
清水と三浦の魂のぶつかり合った自然体の音楽
ハ短調で始まる第7番はベートーヴェンの苦悩も見え隠れする中、清水と三浦の魂のぶつかり合うような自然体の音楽がより明白になる。半音ずつ下がっていくだけで、デモーニッシュな世界が見えたり、第2楽章のアダージョで祈りの歌を聴かせながら、エッジを際立たせることも忘れず、第3楽章のスケルツォで三浦のヴァイオリンが自然児のように解き放たれ、時には粗野な音まで駆使してみせたりと、楽譜から感じたままの音楽がエキサイティングだ。第4楽章の最終部プレストでは軽々としかし激情的に2人のヴィルトゥオーゾの呼吸がぴたりと合い、どの部分をとってもベートーヴェンが希代のメロディメーカーであることを思い起こさせてくれた。来年2月いよいよ最後の3曲のソナタで、このシリーズが完結する。
(毬沙琳)
公演データ
清水和音×三浦文彰 ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ 全曲演奏会Ⅱ
7月15日(月・祝)14:00 サントリーホール
ピアノ:清水和音
ヴァイオリン:三浦文彰
プログラム
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第3番 変ホ長調 Op.12-3、第6番 イ長調 Op.30-1、第7番 ハ短調 Op.30-2
アンコール
ポンセ(ハイフェッツ編):エストレリータ
まるしゃ・りん
大手メディア企業勤務の傍ら、音楽ジャーナリストとしてクラシック音楽やオペラ公演などの取材活動を行う。近年はドイツ・バイロイト音楽祭を頻繁に訪れるなどし、ワーグナーを中心とした海外オペラ上演の最先端を取材。在京のオーケストラ事情にも精通している。