ワーグナーの魔力に没入せよ!伝説の『トリスタンとイゾルデ』がついに息を吹き返す

新国立劇場「トリスタンとイゾルデ」より 撮影:三枝近志
新国立劇場「トリスタンとイゾルデ」より 撮影:三枝近志

大野和士指揮×デイヴィッド・マクヴィカー演出の幻の舞台

2010年年末に大野和士指揮、デイヴィッド・マクヴィカー演出で開幕、センセーションを起こした伝説の舞台『トリスタンとイゾルデ』がついに新国立劇場に戻って来る。最高潮の期待の中で幕を開け、チケットを入手できた幸運な観客が冴(さ)え渡った演奏と美しい舞台に酔いしれ、年明けのメディアが『トリスタン』一色に染まったあの初演から13年。「幻のプロダクション」と囁(ささや)かれていた伝説の舞台を、世界第一線を走り続けるオペラ指揮者であり、新国立劇場オペラ芸術監督としてのリーダーシップも高く評価される大野和士自らが指揮台に立ち、満を持して再び聴衆のもとへ届ける。

 

ワーグナー楽劇の最高傑作『トリスタンとイゾルデ』は、正味4時間半(休憩を含め約5時間45分)にわたり身を焦がすような音楽で官能と陶酔が描かれる、ワーグナーの魔力の結晶たる大作。ワーグナー楽劇ならではのライトモティーフや、旋律から旋律へと連綿と繋(つな)がる無限旋律がふんだんに用いられるだけでなく、ワーグナーは半音進行を突き詰め、「トリスタン和音」と称される不安定な響きの和音を生み出し、解決まで長く続く緊張によって官能と高揚を表現した。単独で演奏されることも多い前奏曲、そしてクライマックスの「イゾルデの愛の死」は特に有名で、甘美なうねりが聴くものをカタルシスに導く。

 

マクヴィカー演出の『トリスタンとイゾルデ』は夜の世界。禁断の愛に目覚める序幕と愛の死を迎える終幕は月が支配し、愛の歓びを迎える第2幕は漆黒の闇に星が煌(きら)めき、理性と対比される闇の世界を印象付(づ)ける。美しく象徴的な舞台で求心力あるドラマが展開し、研ぎ澄まされた音楽に没頭させられると評判になった。

ニャリ、キンチャ、シュヴィングハマー、シリンス、藤村
世界のワグネリアン注目のキャスト

左上よりZ.ニャリ、W,シュヴィングハマー、L.キンチャ、E.シリンス、藤村実穂子、大野和士
左上よりZ.ニャリ、W,シュヴィングハマー、L.キンチャ、E.シリンス、藤村実穂子、大野和士

今回の題名役トリスタンには、トルステン・ケールに代わり、ハンガリーのテノール歌手ゾルターン・ニャリが出演。俳優として活動した後ブダペスト・オペレッタ劇場で『ミス・サイゴン』などに主演し、カンパニーの看板歌手として数々のオペレッタに出演していたという異色の経歴の持ち主だ。オペラに転向後はハンガリー国立歌劇場のほかドレスデン、フランクフルトなどで活躍、2014年グラーツの『死の都』パウルの成功で国際的な注目を集める。ワーグナーのテノール諸役には15年から取り組み、既に『さまよえるオランダ人』エリック、『ニーベルングの指環』ジークムント、ジークフリート、『トリスタンとイゾルデ』トリスタン、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』ヴァルター・フォン・シュトルツィングに出演、本場ドイツでもヘルデンテノールとしての評価を高めている。尽きることのない力強さと叙情性あふれる声、そして何より内的な表現で絶賛されているニャリのトリスタンに期待したい。

 

イゾルデにはワーグナー歌手として欧州各地で活躍するリエネ・キンチャが出演。キンチャは新国立劇場では2019年『タンホイザー』エリーザベト役の伸びやかな歌唱が感動を誘った。さらに、マルケ王には若手ワーグナー歌いのトップと目され、バイロイト音楽祭にも出演を重ねるヴィルヘルム・シュヴィングハマー、従者クルヴェナールに日本でもおなじみの名バス・バリトン歌手エギルス・シリンス、イゾルデの侍女ブランゲーネには日本が世界へ誇るメゾ藤村実穂子と、ワグネリアンには見逃せないトップ歌手陣が集結。メロートの秋谷直之をはじめ、国内からも大野の信頼厚い歌手陣が揃(そろ)う布陣だ。

 

そして、最近ではブリュッセル・フィルハーモニック、東京都交響楽団での演奏に加え、ロンドン響、大成功を収めたパリ管の『メトロポリス』、モネ劇場23/24シーズン開幕公演『カッサンドラ』(世界初演)などで国際的反響を呼び、緊張感と構築力に富む演奏がますます評価される指揮者大野和士の円熟の演奏にも期待が募る。オーケストラピットには、大野が音楽監督を務める東京都交響楽団が入る。

 

最近は新国立劇場のオペラ目当てに日本を訪れる欧米やアジア諸国のオペラファンも多い。『トリスタンとイゾルデ』はこの春、国内外の音楽ファンが注目する大型公演だ。クラシック通はもちろん、ワーグナーに挑戦してみようという人にも、ワーグナーの至高の愛の世界、ワーグナーの魔力に半日間、全身で没入できる貴重な公演となる。ストーリー自体はワーグナーに付き物の複雑難解なものではないので、ワーグナーの真価に触れてみたいという方はぜひ、美しい音楽と舞台に身を委ねる快楽を体感して欲しい。

『トリスタンとイゾルデ』ダイジェスト映像

公演データ

新国立劇場2023/2024シーズンオペラ『トリスタンとイゾルデ』

2024年3月14日(木)16:00/17日(日)14:00/20日(水祝)14:00/23日(土)14:00/26日(火)14:00/29日(金)14:00
会場:新国立劇場オペラパレス

指揮:大野 和士
演出:デイヴィッド・マクヴィカー
美術・衣裳:ロバート・ジョーンズ
照明:ポール・コンスタブル
振付:アンドリュー・ジョージ
再演演出:三浦 安浩
舞台監督:須藤 清香

トリスタン:ゾルターン・ニャリ
マルケ王:ヴィルヘルム・シュヴィングハマー
イゾルデ:リエネ・キンチャ
クルヴェナール:エギルス・シリンス
メロート:秋谷 直之
ブランゲーネ:藤村 実穂子
牧童:青地 英幸
舵取り:駒田 敏章
若い船乗りの声:村上 公太
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京都交響楽団

 

チケット料金
S席31,900円 ・ A席26,400円 ・ B席18,700円 ・ C席13,200円 ・ D席7,700円・ Z席1,650円
※トリスタン役に出演を予定しておりましたトルステン・ケールは急病により出演できなくなりました。代わりまして、ゾルターン・ニャリが出演いたします。

U25優待チケット5,000円/U39優待チケット11,000円あり
公式サイト:https://www.nntt.jac.go.jp/opera/tristan-und-isolde/

SHARE :