エリアフ・インバル指揮 東京都交響楽団第1000回定期演奏会

若々しく活力にあふれた指揮で都響から1000回に相応しい充実の演奏を引き出したエリアフ・インバル (c)Rikimaru Hotta/東京都交響楽団提供
若々しく活力にあふれた指揮で都響から1000回に相応しい充実の演奏を引き出したエリアフ・インバル (c)Rikimaru Hotta/東京都交響楽団提供

第1000回定期にふさわしいインバル都響の記念碑的名演

ブルックナーの交響曲第9番は第3楽章で終わる未完の作品だが、ブルックナーは亡くなる前日まで第4楽章の作曲に没頭し、490ページにも及ぶ手稿を残した。
これまでさまざまな補筆完成への取り組みがなされてきたが、今回日本初演となるニコラ・サマーレ、ジョン・A・フィリップス、ベンヤミン=グンナー・コールス、ジュゼッペ・マッツーカ(4人の頭文字を取ってSPCM)による最新ヴァージョン(2021-22年)は、40年にわたる調査・研究の最終形であり、決定稿と言えるかもしれない。

 

インバルは88歳、米寿(べいじゅ)を迎えたことを微塵(みじん)も感じさせない、青年のように若々しく活力にあふれた指揮で、復活した第4楽章の輝かしい勝利に向かって突き進んでいく。
都響もコンサートマスター山本友重以下、引き締まり磨き抜かれた弦、ホルンをはじめとする強力な金管、美しく清涼に歌う木管、激しいティンパニまで、全楽員が最高の集中力でインバルに応え、第1000回定期にふさわしい記念碑的名演となった。

最高の集中力を発揮しインバルの要求に見事に応えた東京都交響楽団(c)Rikimaru Hotta/東京都交響楽団提供
最高の集中力を発揮しインバルの要求に見事に応えた東京都交響楽団(c)Rikimaru Hotta/東京都交響楽団提供

圧巻は、第1楽章展開部で主要主題が再現する際の息を吞むような激しい急迫と急停止。第2楽章スケルツォの地を揺るがすような激烈さ。第3楽章アダージョの全管弦楽の圧倒的な頂点。同じくコーダ手前のクライマックス。いずれもインバルは最大規模で都響を鳴らすが、見事なバランスが保たれ音の混濁がない点は驚異的だった。

 

2021-22年SPCM版第4楽章は、同2011年改訂版よりも第1主題のフーガがより完成され、第1楽章の主題群とフィナーレ楽章が結ばれるコーダもさらにスケールが大きくなっている。最後はアレルヤ(第3楽章の主題に出るトランペットのドレスデン・アーメン)が高らかに鳴り響いた。

楽員が退場した後も盛大な喝采は鳴り止まず、インバルは2度もステージに再登場し喝采に応えた(c)Rikimaru Hotta/東京都交響楽団提供 

インバル都響の演奏は速いテンポで一貫した流れがあり、2021-22年SPCM版の優れた補筆もあいまって、第4楽章へスムーズにつながった。

 

聴衆の反応は熱狂的で、インバルへの2度のソロ・カーテンコールがあった。

(長谷川京介)

ロビーに設置された定期1000回記念のデコレ―ション
ロビーに設置された定期1000回記念のデコレ―ション

公演データ

東京都交響楽団 第1000回定期演奏会Bシリーズ

6月4日(火)19:00 サントリーホール

指揮:エリアフ・インバル
コンサートマスター:山本 友重

ブルックナー:交響曲第9番ニ短調WAB.109 (第1~3楽章ノヴァーク版、2021-22年SPCM版 第4楽章 日本初演)

Picture of 長谷川京介
長谷川京介

はせがわ・きょうすけ

ソニー・ミュージックのプロデューサーとして、クラシックを中心に多ジャンルにわたるCDの企画・編成を担当。退職後は音楽評論家として、雑誌「音楽の友」「ぶらあぼ」などにコンサート評や記事を書くとともに、プログラムやCDの解説を執筆。ブログ「ベイのコンサート日記」でも知られる。

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