ドミンゴ・インドヤン指揮 ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団:

Royal Liverpool Philharmonic Concerts in Tokyo

スタイリッシュな演奏!フラットな表現で器楽交響曲としての1つの在り方を示す

2021年からの首席指揮者ドミンゴ・インドヤン(ベネズエラのエル・システマ出身)に率いられた英国の老舗ロイヤル・リヴァプール・フィルの公演。東京初日の演目は、ルーセルの「バッカスとアリアーヌ」第2組曲、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番(独奏:辻󠄀井伸行)、ショスタコーヴィチの交響曲第5番である。

エル・システマ出身の指揮者ドミンゴ・インドヤン(C)Rikimaru Hotta
エル・システマ出身の指揮者ドミンゴ・インドヤン(C)Rikimaru Hotta

インドヤンは、楽曲に澱の如く張り付いた既存情報を排除し、譜面を衒いなく音にするといった行き方で、明朗な音楽を展開した。 オーケストラも必要十分なクオリティ。何より良い音楽を創造せんとする真摯な姿勢が感じられ、気持ちの良いコンサートとなった。
ルーセルは、デリケートな冒頭部分から、しなやかな展開を経て、生彩に富んだラストに至る。本日全体にそうだが、強弱や抑揚が極めて明確だ。
ラフマニノフの協奏曲は、辻󠄀井が強靭かつ細やかなソロを奏で、ロマンティックなオーケストラが絶妙な呼吸で重なっていく。粒立ちの良いピアノとバックが美しく絡みながら、息の長い歌が紡がれた第2楽章は特に秀逸。ピアノが管弦楽に消される場面もほとんどなく、辻󠄀井の協奏曲演奏の中でも出色の好演となった。加えて、抒情味をも湛えた「鐘」の前奏曲のアンコールが見事。

辻󠄀井のこれまでの協奏曲演奏の中でも出色の好演だった(C)Rikimaru Hotta
辻󠄀井のこれまでの協奏曲演奏の中でも出色の好演だった(C)Rikimaru Hotta

先に挙げた特徴が最も出たのがショスタコーヴィチだ。過度な深刻さのないフラットな表現で、美感や高揚感は全て曲に沿ってもたらされる。このスタイリッシュな演奏は、器楽交響曲としての1つの在り方であろう。

(柴田克彦)

公演データ

ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団

2024年5月14日(火) 19:00 サントリーホール 大ホール

指揮:ドミンゴ・インドヤン
ピアノ:辻󠄀井伸行
管弦楽:ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団

プログラム
ルーセル:バッカスとアリアーヌ 第2組曲
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番
ショスタコーヴィチ:交響曲第5番

ソリスト・アンコール
ラフマニノフ:前奏曲「鐘」

オーケストラ・アンコール
プロコフィエフ:バレエ音楽「シンデレラ」Op.87より〝幸福への旅立ち〟

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柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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