名手たちが闊達(かったつ)に語らう珠玉の室内楽
諏訪内晶子が芸術監督を務める国際音楽祭NIPPON2024は、意欲的な企画が満載。年明けのモーツァルト「ヴァイオリン協奏曲全曲演奏会」に続く、2月の室内楽プロジェクトも興味深い。
AKIKO Plays CLASSIC&MODERN with Friendsと題された二晩は、新旧のウィーン楽派にスポットをあてる。初回(2月19日)は「ウィーン1800」の副題で、モーツァルトからベートーヴェン、シューベルトへ至る道をたどった。そこに当時のウィーンで一世を風靡(ふうび)したパガニーニを絡めたのが心憎い。
前半はベートーヴェン「2つのオブリガート眼鏡付きの二重奏曲」で、ヴィオラの鈴木康浩とチェロのイェンス・ペーター・マインツが闊達な語らいを繰り広げ、幕を開けた。その後のメーンがモーツァルトのクラリネット五重奏曲イ長調。名手ポール・メイエを迎え、ヴァイオリンに諏訪内とベンジャミン・シュミットが加わった。
メイエの演奏は滑らかさの極致。豊かなニュアンスをたたえ、脇の奏者たちに目くばせしながら全体をリードする。名手ぞろいの弦楽は特に低弦が雄弁で、4つの声部が克明に浮かぶ。時にヴィブラートの抑制など様式感にも配慮し、いつになくシンフォニックな趣を漂わせた。
後半始めのパガニーニでソリストとしての本領を発揮した諏訪内の演奏に、ファンは溜飲(りゅういん)を下げたことだろう。「モーゼ変奏曲」では、愛器グァルネリ・デル・ジェズの最も低いG線で、妖艶でうなるような泣き節を披露。華麗な技巧でピアノの秋元孝介と「ラ・カンパネラ」を駆け抜けた。
最後のシューベルトのピアノ五重奏曲「ます」で諏訪内は客席に回り、コントラバスの池松宏が新たに参加した。ここで目立ったのは、いま評判の葵トリオでも活躍するピアノの秋元。自分のソロになると歌心あふれる弾みの良い旋律を繰り出し、演奏の精彩が一気に増した。
残り日程の「ウィーン1900」とシューマンの室内楽マラソンコンサートも気になる。
(深瀬満)
公演データ
Akiko Plays CLASSIC with Friends ~ウィーン1800~
2024年2月19日(月)19:00紀尾井ホール
ヴァイオリン:諏訪内晶子
ヴァイオリン:ベンジャミン・シュミット
ヴィオラ:鈴木康浩
チェロ:イェンス・ペーター・マインツ
コントラバス:池松 宏
クラリネット:ポール・メイエ
ピアノ:秋元孝介
プログラム
ベートーヴェン:2つのオブリガート眼鏡付きの二重奏曲 変ホ長調 WoO.32
モーツァルト:クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581
パガニーニ:ロッシーニの歌劇「エジプトのモーゼ」より「汝の星をちりばめた王座に」による序奏と変奏曲 「モーゼ変奏曲」 Op.24, MS.23
パガニーニ/クライスラー:ラ・カンパネラ
シューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」イ長調 D.667
Akiko Plays MODERN with Friends ~ウィーン1900~
2024年2月21日(水)19:00紀尾井ホール
プログラム
ベルク:ヴァイオリン、クラリネットとピアノのためのアダージョ
ウェーベルン:チェロとピアノのための3つの小品 Op.11
コルンゴルト:ピアノ三重奏曲 Op.1
安良岡章夫:ステッラ・ビナーリア~2台のヴァイオリンのための (2023)[国際音楽祭NIPPON委嘱]
シェーンベルク:浄められた夜 Op.4
※出演者などの詳細は主催者ホームページをご参照ください。
https://www.japanarts.co.jp/special/imfn/
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。