尾高の十八番と大フィル名物ブルックナー交響曲で臨んだ東京定期
大フィルの音楽監督へ2018年4月に就任した尾高忠明は、円熟を映す名演を関東でも披露し、ファンをうならせている。朝比奈隆時代から大フィル名物のブルックナーの交響曲にも取り組み、フォンテックのライヴCDは第5弾に到達した(23年1月の第7番)。
充実したコンビが、ブルックナー生誕200周年の今回、東京定期に持ち込んだのは、尾高とも縁が深い武満徹の佳品と、ブルックナーでは地味な第6番。たまたま9日後に、札幌交響楽団も同会場で6番を披露する珍事となった。
大フィルは尾高が音楽監督に就いて、ぜい肉のない引き締まったアンサンブルと明るくクリアーな音色を繰り出すようになった。前半の武満徹「オーケストラのための〝波の盆〟」は、尾高が様々な楽団と手掛けた十八番でもある。大フィルから、よく歌うしなやかなサウンドを引き出し、美麗な旋律を満喫させた。ただ自席が舞台に近すぎ、コンサートマスター(崔文洙)の音のみが妙に飛び出して聞こえたのはマイナスだった。
円熟の尾高と大フィルのDNAが結実! 熱演のブルックナー
後半のブルックナー交響曲第6番は、作曲者自身が改訂しなかったので、版などの問題が少ない。そんなブルックナーの意図にストレートな曲想に合わせて、尾高は第1楽章冒頭から速いテンポで壮健な推進力を示し、ダイナミックなリズムと力感を伴って楽団をドライブしていく。表情にはメリハリと余裕があり、快適な運動性を保つ。第2楽章のアダージョも明澄な流動感を持ち、響きが重くなりすぎない。第3楽章のスケルツォ、第4楽章のフィナーレとも雄渾(ゆうこん)で、若々しい前進力に満ちた勢いが噴出した。
心技体そろった尾高の円熟が、ブルックナーの音楽語法に近しい大フィルのDNAを触発し、スマートな熱演に結実した。
(深瀬満)
公演データ
大阪フィルハーモニー交響楽団 第56回東京定期演奏会
2024年1月22日(月)19:00サントリーホール
指揮:尾高忠明
コンサートマスター:崔文洙
プログラム
武満徹:オーケストラのための「波の盆」
ブルックナー:交響曲 第6番 イ長調(ノヴァーク版)
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。