東京都交響楽団第992回定期演奏会Bシリーズ

ジョン・アダムズが登場!音楽性を追求したこだわりの演奏

ジョン・アダムズが東京都交響楽団の定期演奏会に登場した。アダムズは現代を代表する作曲家の一人。ミニマル・ミュージックで知られ、「中国のニクソン」や「ドクター・アトミック」などのオペラの作曲者としても名高い。2016/17年シーズンにはベルリン・フィルにアーティスト・イン・レジデンスとして招かれ、ベルリン・フィルの指揮台にも立っている。

満を持して都響に登場したジョン・アダムズ 写真:堀田力丸
満を持して都響に登場したジョン・アダムズ 写真:堀田力丸

今回の客演では、自作の「アイ・スティル・ダンス」(2019)、「アブソリュート・ジェスト」(2011)、「ハルモニーレーレ」(1984-85)を披露した。「アイ・スティル・ダンス」は日本初演。ノン・ストップで駆けていくダンス・ミュージックのような作品。アダムズの指揮は、スマートとはいい難いが、曲をよく把握しているので(当然といえば当然である)安心感があり、いろいろな箇所へのこだわりが興味深い。

 

続く「アブソリュート・ジェスト」は、弦楽四重奏とオーケストラのための作品。この曲では、ベートーヴェン作品の引用(たとえば、弦楽四重奏曲第16番や「大フーガ」)が特徴的。響きもどちらかといえば〝古典的〟である。チェロ以外立って演奏したエスメ弦楽四重奏団(ぺ・ウォンヒ、ハ・ユナ、ディミトリ・ムラト、ホ・イェウン)は、技巧に優れ、個々の音もオーケストラに負けない見事な演奏。オーケストラのアンサンブルも良く、目覚ましい成果をあげた。弦楽四重奏とオーケストラのバランスが良かったのは、青木央の〝音響〟にもよるのだろう。エスメだけでベートーヴェンの弦楽四重奏曲第13番第2楽章をアンコール。

エスメ弦楽四重奏団とオーケストラの絶妙なバランスで演奏された「アブソリュート・ジェスト」 写真:堀田力丸
エスメ弦楽四重奏団とオーケストラの絶妙なバランスで演奏された「アブソリュート・ジェスト」 写真:堀田力丸

「ハルモニーレーレ」は、アダムズの初期の代表作。弦楽器が細かい音符を繰り返し、管楽器がロング・トーンを吹く。響きは聴きやすい。第1楽章の中間部では弦楽器が美しいメロディを奏でる。第2楽章ではマーラーの交響曲第10番アダージョの引用があり、第3楽章はリズムの繰り返しの高揚で圧倒的に締め括(くく)られた。作曲者の指揮のもと、機能性よりも音楽性を追求する再現となっていたように思われる。

(山田治生)

公演データ

東京都交響楽団第992回定期演奏会Bシリーズ

2024年1月18日(木)19:00サントリーホール

指揮:ジョン・アダムズ
弦楽四重奏:エスメ弦楽四重奏団

プログラム
ジョン・アダムズ:アイ・スティル・ダンス(2019)【日本初演】
ジョン・アダムズ:アブソリュート・ジェスト(2011)
ジョン・アダムズ:ハルモニーレーレ(1984-85)

ソリスト・アンコール
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第13番変ロ長調Op.130 第2楽章 

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山田 治生

やまだ・はるお

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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