毎日クラシックナビでは10月から新企画「速リポ」をスタートさせます。公演翌日の午後にはそのリポートをアップし、ステージの感動が冷めやらぬうちに読者の皆さまにお伝えすることを目指します。その第1弾は新国立劇場の2023/24シーズンの開幕ステージとなる「修道女アンジェリカ」(プッチーニ)と「子どもと魔法」(ラヴェル)のダブルビル新制作上演(指揮・沼尻竜典、演出・粟國淳)をオペラ評論家の香原斗志氏が速報します。
特徴の異なる2作品が鮮やかに描き分けられた
新国立劇場オペラのシーズン開幕はプッチーニ「修道女アンジェリカ」(1918年初演)とラヴェル「子どもと魔法」(1925年初演)のダブルビル。同時代の作品で「母と子」という共通点がある。前者は女声のみ、後者は子どもと母親以外に登場するのは人間ではない、という点でも特異な2作である。
ただし、ともに当時の最先端の管弦楽法で書かれながら、スタイルはまったく異なる。演出の粟國淳はそこを心得て、前者は修道院を写実的に表現、後者はポップな装置にプロジェクションマッピングを多彩に重ね、鮮やかに描き分けた。
だが、「子どもと魔法」のファンタジーあふれる世界にくらべると、「修道女アンジェリカ」はやや分が悪かった。
沼尻竜典の指揮は、もう少し繊細な静謐(せいひつ)さが表現されれば、アンジェリカと公爵夫人の劇的対話も効果が増しただろう。とはいえ、アンジェリカ役のキアーラ・イゾットンが歌ったアリア「母もなしに」は、叙情的だが厚い声に絶望と祈りが織り込まれた熱唱。ただ、演出は奇跡の場面を、もっと自然に描けなかったものか。
こうして若干不満が残るのは、「子どもと魔法」が鮮やかだったからでもある。子どもを歌ったクロエ・ブリオはリリックな声もたたずまいも適任。沼尻が指揮する東京フィルは、変化に富んだ多様な音楽を色彩豊かに描く。粟國は放縦と克己、自然との共生など、現代につながるさまざまな問題も舞台に織り込んだが、管弦楽にそうしたものも含有する度量があった。
公演は4日(水)、7日(土)、9日(月・祝)にも開催される。
公演データ等の詳細は新国立劇場ホームページをご参照ください。
修道女アンジェリカ/子どもと魔法 | 新国立劇場 オペラ (jac.go.jp)
かはら・とし
音楽評論家、オペラ評論家。オペラなど声楽作品を中心に、クラシック音楽全般について執筆。歌唱の正確な分析に定評がある。著書に「イタリア・オペラを疑え!」「魅惑のオペラ歌手50:歌声のカタログ」(共にアルテスパブリッシング)など。「モーストリークラシック」誌に「知れば知るほどオペラの世界」を連載中。歴史評論家の顔も持ち、新刊に「教養としての日本の城」(平凡社新書)がある。