「トランペットの祭典」に集うトップ奏者たち 松井秀太郎×西村大地×児玉隼人

最高峰の奏者たちが果たす奇跡の競演のすごい相乗効果

トランペットが熱い。世界的にはセルゲイ・ナカリャコフら巨匠が活躍し、日本では2009年生まれの天才奏者、児玉隼人らが世界の注目を集めている。そしてこの夏、これらトップ奏者が一堂に会し、オーケストラをバックに自身の勝負曲で競演する。あまりに豪華な一期一会のコンサートに向けて、松井秀太郎、西村大地、児玉隼人の3人に抱負を聞いた。

(取材・文:香原斗志)

(左から)児玉隼人、松井秀太郎、西村大地
(左から)児玉隼人、松井秀太郎、西村大地

——トランペットに魅了された理由を、それぞれ教えてもらえますか?

松井 小学生で始めた金管バンドで、たまたまトランペットを担当し、その後、吹奏楽、オーケストラ、ジャズと経験して、トランペットは本当にいろんな音楽シーンに使われ、存在感があると感じています。また、自分の唇を振動させて音を出すので、直感的にコントロールしやすく、ベルが前を向いていて、音をダイレクトに伝えられるのも好きです。

西村 父がアマチュアで吹いていたのでトランペットが家にあり、小2から吹き始めました。目立ちたがり屋だったので、ソロで吹く機会が多いこの楽器は、性格にも合ったと思います。音色に多様性があって、いろんな音が出るのもいいですね。松井さんと児玉さんも演奏スタイルが違うだけじゃなく、音色が本当に違う。それが持ち味になり、聴いて楽しいんです。

児玉 5歳のクリスマスの朝、枕元にトランペットのプレゼントがありました。幼児期からオペラやバレエ放送を1日中観るなど、音楽が大好きだったんです。しかも6歳の時、住んでいた釧路にアンドレ・アンリという世界的奏者がきて、生まれてはじめて聴いた生演奏がトランペットでした。楽屋で僕の演奏を聴いてもらい、その時、将来はプロになろうと決めました。
バロック時代から切れ目なく必要とされている楽器で、いまなお進化を続けています。ドイツ音楽ならロータリー・トランペット、バロック音楽ならバロック・トランペットを使う必要があり、ジャンルごとにこんなに使い分ける楽器はないと思います。僕はずっとクラシックですが、先日、松井さんのライヴに行き、ジャズでの全然違う使い方を見ました。そういう体験ができるのもトランペットならではです。

現在、ドイツで研さんを積む児玉隼人
現在、ドイツで研さんを積む児玉隼人

——具体的にはクラシックとジャズでどう違うのですか?

児玉 クラシックは楽譜に沿ってしっかり準備したものを、ステージでお客さんと共有しますが、ジャズではその場で生み出され、二度と同じものはない生もののような音楽です。

——ジャズをされている松井さんは、そういう即興性や一期一会に魅力を感じているのですか?

松井 自分がジャズを好きなのは、自分の意志を問われるからです。ジャズでも人によってアプローチが違いますが、自分は最初から決めていることを少なくしようと努めていて、人前で演奏する時、なにも決めずにステージに上がりたいと考えています。その時に思っていることを、自由に吹ける状態にしておきたいからです。自分が吹きたいことが吹けて、それが最良の選択になるのが即興演奏の面白いところで、ジャズにはそれがあるので、自分は好きなのだと思います。

——プログラムにあるハイドンのトランペット協奏曲〝JAZZ〟は、クラシックに即興性を加えるのですか?

松井 美しいメロディがあると、自分なりに吹きたくなる性分で、だからジャズ・ミュージシャンになったのだと思います。特にハイドンは、いつかはやってみたかったので、このタイミングで取り上げます。いつも一緒にジャズをやっているのがカルテットの面々で、オーケストラの前でソリストを務めたことがあったり、ロックをやっていたり、ポップスのバンドを組んでいたりとみな幅広く、ハイドンにも「楽しそうだね」と言ってくれるようなメンバーです。

ハイドンの協奏曲へのジャズアレンジや自らの作品を披露する松井秀太郎

——西村さんはクラシックもジャズもなさるのですね?

西村 現在はどちらもやっています。ジャズを勉強したことがクラシックのスタイルにいい影響をもたらし、逆にジャズを演奏するとき、クラシックをやっていてよかったと思うことがあります。クラシックの練習は基礎固めや演奏技術の向上に役立ち、ジャズでは自分の思いをそのまま伝えられます。英語ならクラシックで文法を勉強し、喋るのがジャズ、という感覚ですね。
ジャズでは湧き上がった思いを表現できますが、その場で思ったことを人前で吹くのが、最初は恥ずかしかったです。それを堂々表現できた時、クラシックにいい影響があると思えました。

——今回の選曲の秘訣を教えてください。

児玉 ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲は最初から決まっていて、ピアニストが児玉桃さん。僕はドイツのカールスルーエ音楽大学のプレカレッジに留学中ですが、児玉さんはそこの先生で、いつか一緒に演奏ができたらいいな、と思っていました。で、児玉さんがいるので、素晴らしいピアニストが必要なジョリヴェのコンチェルティーノを入れました。また、いつもはジャンルを跨ぐのに抵抗があるのですが、今回はバロックを加え、少し現代寄りのジョリヴェとであえてジャンルを跨いでみました。
いまドイツで、現代音楽もバロックも専門的に学べる環境にいて、今年はそれらを深めたいと思っているので、この機会に挑戦的なプログラムを組みました。

西村 僕の曲目は基本的に児玉さんと一緒ですが、特にAプログラムはヴィヴァルディやヘルテルからジョリヴェ、それから松井さんに書いてもらうオープニングの新曲まで、すごく多様で、1回のコンサートで音楽史を勉強できると思うくらいです。オープニングは無伴奏でやると決まっていて、でも、相応しい曲が見つからなくて松井さんにお願いすることになりました。

クラシックとジャズにボーダーレスに取り組む西村大地
クラシックとジャズにボーダーレスに取り組む西村大地

——3人が同じ舞台に立つのは初めてだと思いますが、どんな期待がありますか?

松井 どこに行っても最年少だったのに、ここではめちゃくちゃ最年長です(松井が1999年、西村が2007年、児玉が2009年生まれ)。3人で練習会みたいに集まって、一緒にコンサートをやりたいね、なんて話していたのですが、本当に影響を受けています。みなトランペットの技術は信じられないハイレベルですが、アーティストとして同じ方向を見ている仲間ができて、なによりうれしいです。

西村 3人はいつも真剣に語り合ってしまいます。隼人君はクラシックを、松井さんはジャズをやりながら、たがいにいいと思ったことを交換し合い、僕もそこに参加できるのがうれしいです。トランペットの優秀なソリストがこんなに活躍している状況も珍しく、音楽高校に通っている僕は、プロとして活動しているこの2人と話すだけでも勉強になり、いい影響をたくさんもらっています。

児玉 トランペットのソリストが音楽界でこれほど注目されるなんて、過去になかったと思いますが、その奏者たちが集まって、トランペットの祭典を開催できるのが本当にうれしいです。普通ならライバルになりかねない4人ですが、それぞれジャンルも、目指しているところも違うので仲良くできていて、嫉妬なんてしたことないし、意見交換も楽しくて仕方ないです。

——ナカリャコフさんとも交流しているのですか?

西村 僕はマスタークラスを1度受けただけです。

松井 自分が共演したのはテレビでの1回だけですが、初めて知ったトランペット奏者なので、かなりの憧れや尊敬の対象です。

児玉 僕も最初に知ったトランペット奏者で、年齢に伴っていろいろな方向で新しい挑戦を続け、本当にすごい。僕がコンサートに行ったり、僕のコンサートに来てくれたりしていて、レッスンも何度かしていただきました。憧れの対象で、まさか共演できるなんて。

——とにかく、すごいメンバーの画期的な集結ですね?

松井 全然違う方向のトランペット奏者がこんなに集まり、いろいろな部分が現れるコンサートはないと思います。自分でも聴きたいです。1日で聴き終えるのがもったいない。

児玉 想像を超えていますよね。トランペット奏者4人の写真が出ていますが、ピアノの児玉桃さんもオーケストラもみな超一流で、僕なんて身の丈に合わないほどです。すごく思いをかけています。

聴き手・香原氏の取材に応じる児玉、松井、西村
聴き手・香原氏の取材に応じる児玉、松井、西村

松井秀太郎(トランペット) Shutaro Matsui, Trumpet

1999 年生まれ。 国立音楽大学ジャズ専修を首席で卒業。2023年「STEPS OF THE BLUE」でメジャー・デビュー。自身のカルテットやデュオ公演をはじめ、小曽根真 No Name Horsesへの参加やオーケストラとの共演などマルチな才能で幅広く活躍。メディアにも多数出演し、ジャズ界の新星として注目を集めている。25年にはライヴ盤「FRAGMENTS-CONCERT HALL LIVE 2025」をリリースし、26年1月からは自身のカルテットにて全国ツアーを予定している。第36回ミュージック・ペンクラブ音楽賞《ポピュラー部門》「新人賞」、日本ジャズ音楽協会2025年度「新星賞」受賞。

児玉隼人(トランペット) Hayato Kodama, Trumpet

2009 年、北海道釧路市生まれ。2024年、第39回日本管打楽器コンクールトランペット部門において、全部門での史上最年少で第1位、及び文部科学大臣賞、東京都知事賞を受賞。併せて特別大賞(内閣総理大臣賞)を受賞。2025年、第6回ウィーン国際音楽コンクール金賞、第3回コダーイ国際音楽コンクール第5位を受賞するなど、数々のコンクールで入賞している。これまでに、N響、読響、東響、東京フィル、新日本フィル、札響、山響、仙台フィル、群響、名フィル、大阪響、広響などと共演。これまでにトランペットを松田次史、辻本憲一の両氏に師事。2024, 2025年度ヤマハ音楽支援制度奨学生。第7回服部真二音楽賞《Rising Star》を受賞。2025年2月に1stアルバム「Reverberate」をリリース。現在、カールスルーエ音楽大学のプレカレッジにて、ラインホルト・フリードリヒ氏に師事。

西村大地(トランペット) Daichi Nishimura, Trumpet

2007 年神奈川県横浜市生まれ。 第39回日本管打楽器コンクールトランペット部門入選、第22回東京音楽コンクール金管楽器部門入選。その他にも、日本ジュニア管打楽器コンクールや日本クラシック音楽コンクールなど、数々のコンクールで最高位を受賞。テレビ朝日系「題名のない音楽会」やTBS「THE TIME」にも出演。 ジャズにも精力的に取り組み、Seiko Summer Jazz Camp 2025で特別賞を受賞。BLUE NOTE PLACEやJAZZ AUDITORIA 2024に出演。 また、BLUE NOTE TOKYOにも出演し、BLUE NOTE TOKYO ALL-STAR JAZZ ORCHESTRA にはシークレットゲストとして出演。これまでに清水康弘、栃本浩規、星野朱音、井川明彦、佐藤友紀、菊本和昭の各氏に師事。さらに、セルゲイ・ナカリャコフ、イルーン・ベルワルツの各氏など、著名な奏者のマスタークラスを受講。 YouTubeチャンネル「西村大地Tpちゃんねる」では、幅広いジャンルの演奏動画を投稿し、ジャズとクラシックの二刀流を目標に活動している。

公演データ

松井秀太郎×ナカリャコフ×西村大地×児玉隼人「トランペットの祭典」
https://avex.jp/classics/trumpetfes2026/ 

公演日時・場所:
2026 年7月25日(土)14:00 石川県立音楽堂 コンサートホール
7月26日(日)14:00 鎌倉芸術館 大ホール
7月27日(月)18:45 愛知県芸術劇場コンサートホール
7月30日(木)19:00 福岡シンフォニーホール(アクロス福岡)
8月1日(土)14:00 東広島芸術文化ホール くらら
8月2日(日)14:00 ザ・シンフォニーホール(大阪)
8月4日(火)19:00 東京オペラシティ コンサートホール

出演者:
トランペット:松井秀太郎、セルゲイ・ナカリャコフ、西村大地、児玉隼人
指揮:中田延亮
ピアノ:児玉桃
チェンバロ:曽根麻矢子
松井秀太郎カルテット(ピアノ:壷阪健登 ベース:小川晋平 ドラムス:きたいくにと)
管弦楽:オーケストラ・アンサンブル金沢
※公演により出演者が変更となります

曲目:
■プログラムA(石川、鎌倉、愛知)・AA(福岡)
松井秀太郎:TRUST ME ※プログラムAのみ
ヴィヴァルディ:2つのトランペットのための協奏曲 ※プログラムAAのみ
ヘルテル:トランペット協奏曲第3番
ジョリヴェ:トランペットとピアノのためのコンチェルティーノ
チャイコフスキー:ロココ風の主題による変奏曲
アーバン:「ヴェニスの謝肉祭」の主題による変奏曲
松井秀太郎:ハイドン トランペット協奏曲〝JAZZ〟

■プログラムB(東広島、大阪、東京)
松井秀太郎: トランペットの祭典2026オープニング曲(新作)
ヘルテル:トランペット協奏曲第3番
ジョリヴェ:トランペットとピアノのためのコンチェルティーノ
ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第1番
アーバン:「ヴェニスの謝肉祭」の主題による変奏曲
松井秀太郎:ハイドン トランペット協奏曲〝JAZZ〟

Picture of 香原斗志
香原斗志

かはら・とし

音楽評論家、オペラ評論家。オペラなど声楽作品を中心に、クラシック音楽全般について執筆。歌唱の正確な分析に定評がある。著書に「イタリア・オペラを疑え!」「魅惑のオペラ歌手50:歌声のカタログ」(共にアルテスパブリッシング)など。「モーストリークラシック」誌に「知れば知るほどオペラの世界」を連載中。歴史評論家の顔も持ち、新刊に「教養としての日本の城」(平凡社新書)がある。

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