チェリスト上村文乃 リサイタル・シリーズ「A OF CELLO」を語る

インタビューに応じる上村
インタビューに応じる上村

古楽から現代音楽まで幅広く活躍する、チェリストの上村文乃が「A OF CELLO」というリサイタル・シリーズを始める。その第1弾(1月25日・王子ホール)でもやはり、バッハから細川俊夫作品(日本初演)まで実に多彩なプログラムが組まれている。

(取材・構成 山田治生)

——まず、シリーズの「A OF CELLO」というタイトルについて教えてください。
上村 Aという文字がアルファベットの一番初めの文字という意味もありますし、日本語でひらがなの「あ」も初めの文字ですよね。人間が一番初めに発音するのも「A」かなと思いまして。Aを含む単語、アートとか、愛とか、オーセンティックとか、そういういろんな単語の意味を内包してチェロで表現していきたいという思いを込めて、このタイトルにしました。

——シリーズを通してどんなプログラムを考えていますか。
上村 一応、大きな目標としては、J・S・バッハの無伴奏チェロ組曲を第6番まで、毎回一つずつ取り上げて、最後に全曲演奏会をしたいなと思っています。

——バッハ以外の曲はどうですか。
上村 それもまたまだいろいろ考え中なのですが、今回はモダンのチェロでプログラムを組んでいるので、次回は古楽にフォーカスしたものであったりとか、その時の自分の考えに沿ってプログラムを練っていきたいと思っています。

——今回の演奏曲目についてお話ししていただけますか。まずはコダーイの無伴奏チェロ・ソナタから。
上村 コダーイのソナタはすごく民族的といいますか、コダーイは、自分の生まれた国がどういったものなのか、自分の血がどういうことを表しているのか、自分自身をすごく研究することによってこの作品を生み出したと思います。
美術の話になってしまいますが、私はゴーギャンがすごく好きなのです。彼がよく言っていた「自分たちはどこから来てどこに向かって生きているのか」という考え方、それは私がいつも思っていることなのですが、そういうところがコダーイにもあるんじゃないかなと思います。
チェロという私の一番得意とする表現方法で、そのコダーイの考えと共鳴するということが私にとってすごく価値あることだと思っています。

自身のチェロを手にして

——細川俊夫さんの無伴奏チェロのための「黒田節」は日本初演ですね。
上村 細川先生の作品は日本的な音がすごく多くて、特にチェロは琴を模していることが多いのですが、実は私の母も琴をやっていたので、家に琴があって、小さい時にちょっと自分も弾いてみたりしたことがありました。琴は自分の人生に重ねて懐かしさもありますし、それをチェロで表現できて、しかも今、細川先生と直接お話ししながら演奏できるっていうのは本当に素晴らしいことです。
無伴奏チェロのための「黒田節」は、結婚式の為に作曲されたっていうこともあって、黒田節自体がお祝いの席で歌われる節であり、ゆったりした気持ちで聴けると思います。

——バッハは、今回は第1番を演奏されます。普段、古楽器(バロック・チェロ)も弾いていらっしゃいますが、モダン楽器で弾くバッハというのは何か違う感じがあるのですか。
上村 モダン楽器で演奏する時は、私自身はバッハの作品であっても、ベルカントというか、少し雄大な歌になるように意識して弾いています。なのでもしかしたら、バッハ自身が考えていた音とはちょっと違うかもしれないのですけれども、楽器が一番鳴りやすい形で、演奏しています。

——その次にミニマル・ミュージックの大家、スティーヴ・ライヒの「チェロ・カウンターポイント」を演奏されます。
上村 私がライヒに初めて触れたのは、桐朋学園の学生時代でした。その時にトリプル・クァルテットを演奏しました。ライヒのミニマル・ミュージックは、本当に音楽っていうよりも宇宙的といいますか、弾いて、何かそのトランス状態に陥るような魅力を感じます。そのライヒ自身のチェロの曲があるということなので、今回やってみることにしました。

——そして、最後にラフマニノフのチェロ・ソナタですね。
上村 ラフマニノフのソナタは、幼少期から大切にしている作品なので、それをこの記念となるコンサートで最後に演奏したいと思いました。ラフマニノフはピアニストとしては大家ですが、彼の心の内側の声は、楽器がチェロになった時に一番表現されているんじゃないかなと思っています。チェロだからこそできる、ピアノでは表現できないラフマニノフの声があるんじゃないかなと思います。

——ラフマニノフで共演する松本和将さんについてはいかがですか。
上村 ラフマニノフをシリーズで弾いていらっしゃって、凄く研究されている方なので、リハーサルで色んなことをピアニストからの目線で教えていただけたらいいなと思っています。もともと二人で、ラフマニノフとかショパンとかを弾いていきたいねと話していたので今回はいい機会だなと思いました。

——今後、どういうチェリストになりたいですか。
上村 もちろん、チェリストとして活動しているんですけれども、たまたま私が持っているものがチェロというだけであって、自分が表現したいことは、自分がこの時代をどうやって生きていくのかっていうことだと思うので、自分が社会にとってどうやって役に立っていけるのかっていうのをすごく探していきたいし、それを音楽で表現して、聴きに来てくださった人に、何か明日生きる力を心の中に感じていただけるような音をずっと作りたいなと思っています。
今は、チェリストとしてというよりも、芸術家として何かを表現していきたいっていうのが、すごく大きな目標にあります。

芸術家としての夢を語る上村

公演情報

上村文乃 チェロ・リサイタルA OF CELLO Vol.1

2025年1月25日(土)14:00 銀座 王子ホール

上村文乃(チェロ)
松本和将(ピアノ)

コダーイ:無伴奏チェロ・ソナタ ロ短調Op.8
細川俊夫:無伴奏チェロのための「黒田節」2024(日本初演)
J・S・バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調BWV1007
ライヒ:チェロ・カウンターポイント(チェロ独奏&テープ版)
ラフマニノフ:チェロ・ソナタ ト短調Op.19

関連サイト:上村文乃 チェロ・リサイタルA OF CELLO Vol.1

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