元日に行われたウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤー・コンサートの模様を収めたCD(2枚組)の国内盤が1月28日に、ブルーレイディスクが2月18日にソニーミュージックからリリースされる。本稿ではその魅力について紹介したい。
毎年元日にウィーンのムジークフェラインザール(楽友協会大ホール)で開催されるウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートはクラシック音楽界の中で最も人気のある催しのひとつとして知られる。その模様は毎年約90カ国以上で放送され、5000~6000万人の音楽ファンが視聴しているといわれる。日本でもNHK-Eテレなどで元日夜に生中継されている。また、日本の大手旅行代理店が毎年鑑賞ツアーを催行しているが、中にはオプションで付けられる同コンサートのチケット料金が手数料も含めて100万円単位の超高額であっても発売と同時に完売するほどの人気ぶりである。
1939年の大みそかにクレメンス・クラウスの指揮で始まった特別演奏会が起源となるニューイヤー・コンサートだが、1955年から79年まではウィーン・フィルの名コンサートマスターだったヴィリー・ボスコフスキーがヨハン・シュトラウスⅡ世に倣ってヴァイオリンを弾きながら指揮をして人気を集めた。87年以降はウィーン・フィルとの関係が深く世界の第一線で活躍する人気指揮者が交代で指揮を務めるようになった。2002年にはウィーン国立歌劇場音楽監督就任直前の小澤征爾が日本人として初めて登場。この模様を収めたCDやDVDなどのソフトをすべて合計するとクラシック音楽界では異例のミリオン・ヒットを記録して注目を集めた。
今年はニューヨーク・メトロポリタン歌劇場とフィラデルフィア管弦楽団で音楽監督を務めるカナダ出身のヤニック・ネゼ=セガンが指揮台に立った。さすがエンターテインメントの本場である米国で活躍するネゼ=セガンだけにエンタメ性に富み、観客・聴衆を巻き込んだ楽しいコンサートとなった。
ニューイヤー・コンサートでは毎年、有名なウィンナ・ワルツやポルカに加えて隠れた名曲やユニークな作品をその年の指揮者の個性に合わせてプログラミングしている。今年はヨハン・シュトラウス一家が活躍した19世紀のヨーロッパで初めてとなる女性のオーケストラを組織したヨゼフィーネ・ヴァインリヒによるポルカ・マズルカ「セイレーン(海の精霊)の歌」、米国初の黒人女性作曲家フローレンス・プライスによる「レインボー・ワルツ」など5曲が演奏された。さらにヨーゼフ・シュトラウスのワルツ「女性の真価」を取り上げたことで、ネゼ=セガンがプログラムの中に〝女性へのリスペクト〟〝差別への反対〟というメッセージを込めたことが分かる。さらに正規の演目の最後にヨーゼフ・シュトラウスのワルツ「平和の棕櫚(しゅろ)の葉」を演奏したことで、流動化する国際情勢を背景に平和の尊さを訴えた。
こうした真面目なメッセージの一方でコンサート自体は例年にも増して楽しさに満ち溢れたものとなった。まず〝ノリ〟のよいリズミカルな作品が多く演奏されたことである。ウィーン・フィルのメンバーが演奏しながら威勢のよいかけ声をかけるランナーの「マラプー・ギャロップ」などの〝かけ声演奏〟が3曲もあったこと。さらにロンビの「コペンハーゲン蒸気機関車ギャロップ」では、打楽器奏者たちが鉄道員の扮装で演奏しネゼ=セガンが鉄道の信号標識を手に指揮するなどのパフォーマンスで、メンバーと聴衆が一体となってコンサートを楽しむ雰囲気が醸成された。
極めつけはニューイヤー・コンサート恒例のアンコール3曲目、ヨハン・シュトラウスⅠ世のラデツキー行進曲。例年、観客・聴衆が演奏に合わせて手拍子を打つのだが、今年はドラム・マーチとともにネゼ・セガンが1階の上手側通路から客席に登場し観客に向けても指揮をするサプライズを行ったのだ。客席通路を縦横無尽に歩きながら指揮するネゼ=セガンに観客は大熱狂。終演後は客席が総立ちとなる大きな盛り上がりとなった。
今回リリースされたCDにはコンサートで演奏された全曲が高品位の音質で収められている。ブルーレイディスクでは黄金のホールと呼ばれるムジークフェラインの中で繰り広げられたパフォーマンスも含めてウィーン・フィルのメンバーと観客が一体となって楽しむ様子が高精細の映像と音声で視聴することができる。
なお、2027年元日のニューイヤー・コンサートはNHK交響楽団への客演などで日本の音楽ファンにも人気のロシア出身のトゥガン・ソヒエフが指揮を務めることが発表された。
ネゼ=セガンのメッセージ動画
公演データ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団ニューイヤー・コンサート2026
1月1日(木)ウィーン、ムジークフェラインザール
指揮:ヤニック・ネゼ=セガン
管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
コンサートマスター:ライナー・ホーネック
プログラム
[第1部]
ヨハン・シュトラウスⅡ世:オペレッタ「インディゴと40人の盗賊」序曲
ツィーラー:ワルツ「ドナウの伝説」Op.446
ランナー:マラプー・ギャロップ Op.148の1
エドゥアルト・シュトラウス:ポルカ・シュネル「暴れる小悪魔」Op.154
ヨハン・シュトラウスⅡ世:こうもりカドリーユ Op.363
ヨハン・シュトラウスⅠ世:ギャロップ「パリの謝肉祭」Op.100
[第2部]
スッペ:オペレッタ「美しきガラテア」序曲
ヨゼフィーネ・ヴァインリヒ(W.・デルナー編曲):ポルカ・マズルカ「セイレーンの歌」Op.13
ヨーゼフ・シュトラウス:ワルツ「女性の真価」Op.277
ヨハン・シュトラウスⅡ世:ポルカ・フランセーズ「外交官のポルカ」Op.448
フローレンス・プライス(W.・デルナー編曲):レインボー・ワルツ
ロンビ:コペンハーゲン蒸気機関車ギャロップ
ヨハン・シュトラウスⅡ世:ワルツ「南国のばら」Op.388
ヨハン・シュトラウスⅡ世:エジプト行進曲 Op.335
ヨーゼフ・シュトラウス:ワルツ「平和の棕櫚の葉」Op.207
アンコール
フィリップ・ファールバッハⅡ世:ポルカ・シュネル「サーカス」Op.110
ヨハン・シュトラウスⅡ世:ワルツ「美しく青きドナウ」Op.314
ヨハン・シュトラウスⅠ世:ラデツキー行進曲Op.228
ひらの・れいね
オーストリア在住のチェリスト・文筆家。東京大学で美学芸術学を専攻、表象文化論コース修士課程修了。アレグロ・ヴィーヴォ賞ほか受賞多数。著書に『クラシック100の味―ウィーンの演奏は上手いより美味い』(彩流社)。『音楽の友』海外レポートをレギュラー担当。
平野玲音ファンクラブ公式サイト reine-h.com 公開中。 | オーストリアの今 note.com/reinehirano 公開中。 | YouTube youtube.com/@ReineHirano 公開中。









