「大阪フィル」「ブルックナー」と聞くとやはり多くの方々は朝比奈隆をイメージされるのではないだろうか?創立名誉指揮者・朝比奈隆が築いた伝統は今も残るとはいうものの、朝比奈が旅立ってもう20年が過ぎ、実際に朝比奈のタクトの下で演奏した楽団員もずいぶん少なくなった。それでも大阪フィルには確かに朝比奈によって創られたブルックナー演奏の流儀がある。それは言葉で語られることはないが、音を出した瞬間に一瞬で共有される。いつも大阪フィルのそばにいて不思議に思う瞬間であり、興奮する場面である。
朝比奈隆は生前どれだけブルックナーの交響曲を大阪フィルと演奏してきたのか?手元の資料によると、4番が12回、7番が30回、8番が22回、9番が12回。もちろん数々の録音を話題に出すまでもなく、他の番号にも複数回取り組んでいる。7番は有名なザンクト・フローリアン(修道院、オーストリア・リンツ近郊)での録音がある。1975年のヨーロッパ楽旅での演目だったが、とにかく朝比奈と大阪フィルによるブルックナーは驚異的な演奏数だ。その中でも特に8番の演奏に目が行く。YouTubeで検索すると朝比奈と大阪フィルのブルックナー8番は3つの演奏がヒットする。1989年、1994年、2001年のライブだが、朝比奈と大阪フィルがどのようにこの偉大な交響曲にアプローチをしたかが良くわかる。思わず背筋が伸びて襟を正してしまう。
さらにYou Tube上には、朝比奈の後を継いだ第2代音楽監督大植英次が監督としてのラスト・ステージで演奏した8番がアップされていた。2012年3月のステージだ。大植英次は音楽監督に就任した翌年(2004年)の第380回定期でもブルックナーの8番を取り上げている。この日は朝比奈の誕生日で、カーテンコールで大植が掲げた朝比奈の写真と熱演を繰り広げた大阪フィルに聴衆は大いに沸いた。まさにエイジ・オブ・エイジの真骨頂だった。大植の監督在任中には上記2回の他に2007年の大阪国際フェスティバルでも披露している。
大植の後に首席指揮者として大阪フィルを率いた井上道義は「大ブルックナー展」という6回の公演を企画して集中してブルックナーの交響曲を取り上げた。2015年の第1回目で8番を取り上げたが、ここで井上はノヴァーク版を使用している。朝比奈、大植、この後に登場する尾高はハース版を使用しているので、今のところ大阪フィルの演奏史で8番をノヴァーク版で演奏したのはこの時だけだ。これは他のオーケストラにはない傾向かもしれない。
そして、2018年の第517回定期でブルックナーの交響曲第8番を指揮して第3代音楽監督に就任した尾高忠明。尾高はすでに2024年がブルックナー生誕200年という節目の年であることを想定していたのかもしれない。毎年1回、本拠地フェスティバルホールでの定期と、年に1度のサントリーホールにおける東京定期でブルックナーの交響曲を採り上げながら、2024年のブルックナー・イヤーに「モーツァルトとブルックナー」と称したシリーズを組み、モーツァルトの後期3大交響曲とブルックナーの0~2番をカップリングした。大きな節目のシーズンに尾高忠明と大阪フィルはブルックナーの交響曲を0~9番までを全曲演奏、録音(フォンテック)を完結することになる。「ブルックナーを振るために指揮者になった」という尾高の意欲はそれでもまだ止まらない。ブルックナー・イヤーが始まった今年4月に兵庫県立芸術文化センターで第9番を取り上げ、締めとなる12月には第8番をザ・シンフォニーホールで披露する。より深みを増した尾高×大阪フィルのブルックナーにぜひご期待いただきたい。
大阪フィルハーモニー交響楽団 演奏事業部長 山口明洋
公演データ
ブルックナー生誕200年記念 大阪フィルハーモニー交響楽団特別演奏会
12月13日(金)19:00 ザ・シンフォニーホール
指揮:尾高 忠明
管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団
プログラム
ブルックナー:交響曲第8番ハ短調(ハース版)