2021年、コロナ禍を乗り越えるために発足した「クラシック・キャラバン」が今年3回目を迎え、全国で好評開催中だ。今年は予定された全国27都道府県での公演も折り返し地点を過ぎ、今後は香川や北海道(11月23日)、福島(26日)、岡山(12月1日)、群馬(2日)、島根(7日)、山口(9日)、福岡(10日)、静岡(23日)、京都(30日)、新潟(1月7日)の11都市で、ガラ・コンサートが予定されている。
日本クラシック音楽事業協会の加盟社が総力を挙げて企画するだけあって、気鋭の若手からベテランまで選りすぐりの多くのアーティストが出演し、その公演は唯一無二。キャラバンの名のとおり全国各地で行われる公演は、都市ごとに異なるプログラムが組まれ、豪華アーティストと名曲による饗宴が華やかに繰り広げられる。さらに今年は企画アドバイザーに作曲家の池辺晋一郎と西村朗、ピアニストの仲道郁代、テノール歌手の福井敬が加わり、専門家の視点から公演企画をサポート。日本人作曲家の作品も各公演1曲ずつ取り上げられ、一層充実したプログラムで開催されている。
その一例を、まずは直前に迫った香川公演からご紹介しよう。穴吹学園ホール(せとうち観光専門職短期大学内)で行われる公演は「〜歌の翼に〜歌でつながる世界の旅」をテーマにドイツ、イタリア、日本など世界のオペラや歌曲の名曲が盛りだくさん。今年5月のNISSAY OPERA「メデア」でのネリスや10月のカーチュン・ウォン&日本フィルハーモニー交響楽団によるマーラーの交響曲第3番のソリストで好評を博した山下牧子(メゾソプラノ)は、バッハ=グノーの「アヴェ・マリア」やビゼーのオペラ「カルメン」から、おなじみの「ハバネラ」を歌う。また岡 昭宏(バリトン)とのデュオ、バーンスタイン「ウエスト・サイド・ストーリー」の名曲「トゥナイト」にも注目したい。なにも声楽による「歌」だけではない。若手ピアニストとして人気を誇る松田華音はメンデルスゾーンの無言歌集を佐藤采香(ユーフォニアム)と奏で、柴田俊幸(フルート)とはドビュッシー「ビリティスの歌」より「夏の風の神、パンに祈るために」を予定している。香川のプログラムはおよそ15曲以上、演奏家も総勢10名以上にのぼる。奥深く華やかな声楽曲の世界を楽しめるはずだ。
また群馬公演では、高崎芸術劇場音楽ホールを会場に、その良質な音響を堪能できるブラームス尽くしの「作曲家アニバーサリー・ガラ・コンサート 生誕190周年、今日はとことんブラームス!」が予定されている。出演アーティストは元NHK交響楽団の首席客演ヴィオラ奏者で大ベテランの川本嘉子を筆頭に、地元群馬交響楽団で首席クラリネット奏者を務める西川智也、ロン・ティボー・クレスパン・コンクールで1位なし第3位の實川風(ピアノ)、ヴィエニャフスキ国際コンクール第2位の小林美樹(ヴァイオリン)、ブラームス国際コンクールで優勝した三原未紗子(ピアノ)、ロン=ティボーやエリザベート国際コンクールで第2位の成田達輝(ヴァイオリン)ほか、実力派の若手奏者が勢ぞろい。三原のピアノで聴くブラームスの6つの小品や、西川を中心としたクラリネット五重奏曲、また同じ編成で西村朗が手掛けた「第1のバルド」、そしてピアノ四重奏曲第3番ほか、様々な編成と良質な演奏によるブラームスの旋律美を味わいたい。
そしてもう一つ、キャラバンの最後を飾るりゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館コンサートホールにおける「仲道郁代プロデュース 5台ピアノの祭典」をご紹介したい。こちらはアドバイザーの仲道が手掛けた肝いりのプログラムで、仲道のほか、横山幸雄、小川典子、五十嵐薫子、小井土文哉、吉見友貴らベテランから若手のピアニストが大集結。第1部はラヴェルのラ・ヴァルス(仲道/横山)ほかデュオで、そして第2部はホルストの組曲「惑星」から「木星」(全員)などを5台ピアノで楽しめるプログラムが組まれている。そんなに沢山のピアノを一体どこから!?と思うほど、5台ピアノによる公演は珍しい。先だって行われた記者会見で、仲道は「5台のための作品は超絶技巧な編曲を施された作品。ピアニストたちにとっても挑戦的で、それだけに聴きごたえのあるプログラムです」と語っていた。その稀有な機会に立ち会いたい。
ご紹介はごく一部にとどまるが、このほか華やかなガラ・コンサートが目白押しの今回の「クラシック・キャラバン」。この演奏家、この規模の演奏会ながら、昨今の経済状況も鑑みて、2,000~5,000円とチケットも手が届きやすい価格で設定されている。またカーテンコールは撮影可能で、SNSにあげて臨場感や感動を共有し合うことができるのも嬉しい。ぜひ来場者の視点から、このガラ・コンサートの担い手として、ともにキャラバンを盛り上げて欲しい。
(正木裕美)
公式サイト
クラシック・キャラバン2023
https://www.classic-caravan.com/
まさき・ひろみ
クラシック音楽の総合情報誌「音楽の友」編集部勤務を経て、現在はフリーランスで編集・執筆を行い、仙台市在住。「音楽の友」編集部では、全国各地の音楽祭を訪れるなどフットワークを生かした取材に取り組んだ。日本演奏連盟「演奏年鑑」東北の音楽概況執筆担当。