J・S・バッハの音楽は、いつも聴き手の心に染み入るもの。この秋も、じっくり耳を傾けたくなる新譜が相次いでいる。
<BEST1>
J・S・バッハ 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ(全曲)
同 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ(全曲)
周防亮介(ヴァイオリン)
<BEST2>
J・S・バッハ ゴルトベルク変奏曲
ダヴィッド・フレイ(ピアノ)
<BEST3>
J・S・バッハ 音楽の捧げもの
ヨハネス・ブラムゾーラー(ヴァイオリン)/アンサンブル・ディドロ
ヴァイオリンの周防亮介の実演は高い集中力とテンション、切れ味鋭い技巧に毎回、圧倒される。当サイトでも8月末の速リポで、デュオのリサイタルを扱った(速リポ|周防亮介&イリヤ・ラシュコフスキー デュオ・リサイタル)。ディスクではバッハの無伴奏ソナタとパルティータに挑み、ちょうど両者が出そろった。ノン・ヴィブラートで様式感を徹底し、鋭敏な音色と筋肉質のリズムで作品へ果敢に切り込む。舞曲性を意識しつつ各曲の構造へ周到に目を配り、研ぎ澄まされたアプローチがみごとだ。
3月に浜離宮朝日ホールで一気に全6曲を披露した意欲的なコンサートでもそうだったが、曲に立ち向かう姿はストイックな求道者のよう。愛器ニコロ・アマティ(1678年製)から繰り出す妖艶な音色と表情は、白刃が宙を舞うような凄みを帯び、ホールのすみずみまで染み渡っていく。そんな音をマイクに収めきるのは至難の業だが、当盤ではややオフ気味のセッティングで、会場の空気感ともども拾い上げている。尋常ではない気迫を示す吐息の激しさがリアルだ。
フランスのピアニスト、ダヴィッド・フレイが今秋、14年ぶりに来日した。バロック時代の小品などを並べた同ホールでの単独演奏会では、温かい音色と柔軟なタッチを生かし、考え抜かれたドラマトゥルギーで魅了した。万華鏡のように変奏が連なる「ゴルトベルク変奏曲」でも聴きどころは変わらない。一つ一つの変奏に劇的要素を見つけ出し、その積み重ねで全体を組み立てて行く。伸縮や振幅が大きい自在な解釈を繰り広げる。
バロック・ヴァイオリンの名手ヨハネス・ブラムゾーラーは、みずから主宰するグループ、アンサンブル・ディドロと「音楽の捧げもの」を出した。バッハがフリードリヒ大王の与えた主題を題材に、作曲法の粋を凝らした変奏の数々を生き生きと展開。各奏者の技量も高く、変化に富んだ表情と音色でバッハの真髄を楽しませる。
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。










