編成の妙、時代の彩り

ピアノとオーケストラ、合唱団の組み合わせによる力作が目立つ。協奏曲もバロックから現代までさまざま、ピアノとコーラスによる作品はさらに珍しい。

<BEST1>

ショスタコーヴィチ ピアノ協奏曲第1番、第2番他

アンドリス・ネルソンス(指揮)/ユジャ・ワン(ピアノ)/ボストン交響楽団

ショスタコーヴィチ ピアノ協奏曲第1番、第2番他
ドイツ・グラモフォン(ユニバーサルミュージック) UCCG-45122

<BEST2>

バッハ ピアノ協奏曲集(第1~3、5番)

ベアトリーチェ・ラナ(ピアノ)/アムステルダム・シンフォニエッタ

バッハ ピアノ協奏曲集(第1~3、5番)
ワーナー WPCS-13875

<BEST3>

リスト 十字架の道行き&コンソレーション

レイフ・オヴェ・アンスネス(ピアノ)/グレーテ・ペーデシェン(指揮)/ノルウェー・ソロイスツ合唱団

リスト:十字架の道行き、コンソレーション、詩的で宗教的な調べ(第8、9曲)

ソニー SICC-30906

ショスタコーヴィチ没後50周年を記念した企画が、ことしは相次いでいる。ディスクの世界でも事情は同じ。アンドリス・ネルソンスとボストン交響楽団が完成させた交響曲全集(ドイツ・グラモフォン)の続編として、ピアノおよびチェロの協奏曲集が登場した。しかもソリストはユジャ・ワンにヨーヨー・マと豪華きわまりない。ここでは前者をご紹介しよう。

自由奔放で、現代的なスピード感に満ちたユジャ・ワンの奏風は、この2曲にぴったり。スムーズかつ当意即妙、雄大なバックをつけるネルソンスに助けられ、胸のすくような快演を成しとげた。ラプソディックな性格をけれん味たっぷりに表出した第1番、平明な曲想に潜む辛口のユーモアを鮮やかに浮かび上がらせた第2番と、いずれも説得力が強い。交響曲全集もそうだったが、ボストンのシンフォニー・ホールが誇るリッチな残響を生かした艶やかな録音が、錦上に花を添える。

ベアトリーチェ・ラナはバッハと縁が深く、相性もいい。今回は鍵盤楽器による協奏曲に挑み、1枚のディスクに計4曲を収めた。歯切れ良く、メリハリの利いたソロは弾力感があり、活力あふれる歌い回しが魅力。現代のピアノならではの華麗なキャラクターを、フルに生かしている。すっきりして反応のいいバック(アムステルダム・シンフォニエッタ)が、余裕を持ってピアノに寄り添い、適度な張りと潤いあるアンサンブルを聴かせる。

レイフ・オヴェ・アンスネスが円熟の域を迎えて久しい。今回はリストの合唱を伴う宗教曲と、それに性格が近いピアノ曲でCDを作った。キリストの磔刑(たっけい)を扱ったシリアスな宗教作品はインパクトが強く、聴き手の胸をえぐる。それに続くピアノ曲の瞑想的な雰囲気が、リスト晩年の心境を映す。こんなに重みあるディスクは、いかにもアンスネスらしい。

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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