モーツァルトのピアノ協奏曲で、注目盤が相次いで出た。ピリオド楽器での競演に、気鋭の弾き振り、往年の歴史的名演まで、ラインナップは幅広い。
<BEST1>
モーツァルト ピアノ協奏曲第19番・第23番
クリスティアン・ベザイデンホウト(フォルテピアノ)/フライブルク・バロック・オーケストラ(コンサート・マスター=ゴットフリート・フォン・デア・ゴルツ)
<BEST2>
モーツァルト ピアノ協奏曲第20番・第23番ほか
カティア・ブニアティシヴィリ(ピアノ、指揮)/アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ
<BEST3>
モーツァルト ピアノ協奏曲第27番/ブラームス ピアノ協奏曲第2番ほか
ウィルヘルム・バックハウス(ピアノ)/カール・ベーム(指揮)/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団ほか
モーツァルトのピアノ協奏曲でも、作曲当時と同様のピリオド楽器による演奏が浸透してきた。フォルテピアノの達人、ベザイデンホウトと、ピリオド楽器団体の名門、フライブルク・バロック・オーケストラのコンビは、ベートーヴェンと並んでモーツァルトでも快演を聴かせる。これがCD第5弾で、長調の傑作2曲(ヘ長調/イ長調)というカップリングもいい。
演奏全体に活気がみなぎり、アグレッシブなまでの表現意欲が、すみずみまで行き渡っている。即興や効果的なアクセントをふんだんに加え、生々しい興趣が続く。すばやい反応と機動力をフルに生かした愉悦感が爽快だ。独奏もオケも乗りに乗っており、その共同作業のワクワク感は筆舌に尽くしがたい。ことし4月に予定される両者での来日公演が、いまから待ち遠しくなる。
ベザイデンホウトは1805年ごろに製造されたワルター・モデルのコピー(ポール・マクナルティ製作)を弾いている。
ブニアティシヴィリは弾き振り初挑戦。ペダルを多用してソフトなタッチからシャープな骨格まで自在にペースを変え、モダン・ピアノの機能を極限まで駆使した意欲的なアプローチを前面に出す。モーツァルト作品に「微笑む悲しみ」をみるというだけに、特にニ短調の第20番では切迫した悲愴感が濃厚だ。弾き振りの演奏では百戦錬磨の「アカデミー~」は独奏者の思いにピタリと寄り添って、ニュアンス豊かにバックを付けている。
20世紀を代表する大ピアニストの一人、ウィルヘルム・バックハウスはレコード録音を多く遺した。ブラームスの2番とシューマンを加えたステレオ録音の協奏曲3作品などを、高音質盤で再発売したタワーレコードの2枚組みは価値が高い。モーツァルトの第27番は、ほの暗い陰影を格調高く表した定評ある名演で、ベームの指揮も貴重だ。
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。