名指揮者のタクトが生み出すコンビならではの響き

日本でもおなじみとなった、現代の最先端を行く名指揮者たちが、興味深い新譜を出し続けている。手兵から精彩に富んだ響きを引き出し、今後の展開がますます楽しみになる。

<BEST1>

マーラー 交響曲第6番「悲劇的」

サイモン・ラトル(指揮)/バイエルン放送交響楽団

マーラー 交響曲第6番「悲劇的」
BRクラシック(ナクソス・ジャパン) NYCX-10459

<BEST2>

ストラヴィンスキー バレエ「ペトルーシュカ」(1947年版)/ドビュッシー 「遊戯」「牧神の午後への前奏曲」

クラウス・マケラ(指揮)/パリ管弦楽団

デッカ(ユニバーサル・ミュージック) UCCD45026

<BEST3>

メンデルスゾーン 交響曲全集

パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)/チューリヒ・トーンハレ管弦楽団、ほか
メンデルスゾーン:交響曲第1~5番/劇音楽「真夏の夜の夢」(抜粋)

アルファ(ナクソス・ジャパン) NYCX-10463(4枚組)

ベルリン・フィル、ロンドン交響楽団と名門を渡り歩いた後、サイモン・ラトルが次の相手に選んだのは、やはりドイツ屈指の名人集団、バイエルン放送交響楽団だった。すでにいくつかディスクはあるが、首席指揮者に就任して2つめの演目(2023年9月)というマーラーのライヴ盤が登場した。

ラトルにとってマーラーの交響曲第6番「悲劇的」は〝勝負曲〟だ。ベルリン・フィルの初めての客演(1987年)も、首席指揮者最後の公演(2018年)も、この作品だった。すっかり手の内に入ったアプローチは一貫している。スマートで明快な現代感覚にあふれ、オーケストラの優れた機能を駆使。攻撃的でおどろおどろしい要素を巧みに整理して、純音楽的に磨き抜かれた見通しよい快演に仕上げる。自己投影の強い激情型とは一線を画し、清々(すがすが)しい叙情すら漂う。楽団の音色も明るく洗練されている。ことし11月に予定される来日公演への期待が一層膨らむ。

 

1996年フィンランド生まれの新鋭クラウス・マケラは、20代の若さで由緒あるパリ管弦楽団の音楽監督に就任(2021年)するなど、クラシック界を席巻中。既に何度か来日し、才能を見せつけている。パリ管とのストラヴィンスキーやドビュッシーは、コンビの本領を発揮するレパートリー。高解像度で表出されるディテールや華麗な色彩美、リズムのシャープな切れ味に聴き惚れる。気難しい名人集団を夢中にさせた若武者の面目躍如だ。

 

日本ではNHK交響楽団との共演がいつも印象的なパーヴォ・ヤルヴィが、首席指揮者を2019年から務めるチューリヒ・トーンハレ管弦楽団と、メンデルスゾーンの交響曲全集を一気に出した。ピリオド奏法を採り入れ、すっきりした造形を示しつつ、オーケストラ伝統の潤いある音色を生かし、爽快でバランス良い味わいを醸す。

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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