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尾高忠明&大フィル ブルックナー:交響曲第5番
尾高忠明(指揮)/大阪フィルハーモニー交響楽団
ブルックナー:交響曲第5番変ロ長調
フォンテック FOCD9873
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ラ・フォンテヴェルデ モンテヴェルディ:マドリガーレ集 第9巻
ラ・フォンテヴェルデ/金子 浩(リュート、バロック・ギター)/伊藤美恵(バロック・ハープ)/上尾直毅(チェンバロ)
アルテ・デラルコ ADJ-069(2枚組)
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紀尾井ホール室内管弦楽団「2020年9月ライヴ」
グリーグ:組曲「ホルベアの時代から」/マーラー(シュタットルマイア編):交響曲第10番〜第1楽章アダージョ/ブラームス:弦楽五重奏曲第2番 ほか
エクストン OVCL-00797
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コメント
ベテラン指揮者の尾高忠明が巨大な円熟を開花させている。2018年の音楽監督就任以来、熟成を重ねてきた大阪フィルとは相性もよく、このブルックナーのライヴ盤(2022年2月収録)でもコンビの充実度が活写されている。ことし1月24日には同じサントリーホールで交響曲第7番の名演を聴かせたばかりだ。
もとより大阪フィルには朝比奈隆の時代からブルックナー演奏の良き伝統がある。その遺産を受け継いだ尾高は確信にみちた足取りで、対位法が絡み合う大作に真正面から立ち向かう。適度な流動性のなかにも高い内的緊張感を保ち、温かく雄大な流れを堂々と提示した。コロナ禍で久しぶりの東京定期演奏会、しかも朝比奈が得意だった第5番ということで、オーケストラの士気も上がり、高い集中力がもたらす密度の濃い響きと燃焼度に打たれる。このコンビは昨年、ミューザ川崎シンフォニーホールでのエルガーなどでも、充実した演奏で聴衆をうならせた。今後の発展がますます楽しみだ。
ラ・フォンテヴェルデは、17世紀イタリアの声楽曲・マドリガーレをレパートリーの中心に据える国内では数少ない団体。2022年に結成20周年を迎えると共に、こつこつと6年かけて録りためてきたモンテヴェルディのマドリガーレ集全曲録音の完結作・第9巻を出した。コロナ禍をはさんで昨年末に行った20周年記念コンサートでも、本作から何曲か披露して、自家薬籠中の自在な歌唱で魅了した。
紀尾井ホール室内管弦楽団がコロナ禍で活動を止めた半年後、2020年9月に復活した定期演奏会の模様を収めたライヴ盤も出た。海外からの入国制限で指揮者なしという状況に追い込まれたが、そこは日ごろから自発的な合奏を磨いてきた団体のこと、むしろ再開の喜びを映し出す活気ある表情にあふれる。これもひとつの時代のドキュメントだ。
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ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。