その土地ならではの音色、味わいを紡ぐオーケストラ

その土地ならではのユニークな存在感を放つオーケストラによる、味わい深い名演が集まった。胸にしみる響きが、じっくり楽しめる。

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シベリウス:交響曲第3番、カレリア組曲、交響詩「フィンランディア」

村川千秋(指揮)/山形交響楽団

シベリウス:交響曲第3番、カレリア組曲、交響詩「フィンランディア」
Mクラシックス MYCL-00045

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チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴(ひそう)」

ドミンゴ・インドヤン(指揮)/ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団

チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴(ひそう)」
オニキス(東京エムプラス) ONYX4243

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スメタナ:「ヴルタヴァ」(モルダウ)/ドヴォルザーク:チェロ協奏曲ロ短調 ほか

ダニエル・ライスキン(指揮)/スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団/笹沼 樹(チェロ)

エクストン OVCL-00828
エクストン OVCL-00828

山形交響楽団の創設者で、今年90歳を迎えた村川千秋が、同楽団と初のCDを出した。しかもオール・シベリウスという、筋の通った内容。1972年の創立以来、手塩に掛けて育ててきた山響を率いて説得力ある解釈を披露している。村川は東京芸術大学を経て米インディアナ大へ留学し、そこでシベリウスの娘婿だった指揮者ユッシ・ヤラスから、直々にシベリウス演奏の真髄を学んだのだという。現在は山響の創立名誉指揮者。


本作に収録された交響曲第3番は、今年1月の特別演奏会でのライヴ録音。作品の清冽(れつ)な抒(じょ)情と豊かな旋律性をフルに引き出して、みずみずしい感興を自然に発露している。オーケストラの献身的で共感あふれるアンサンブルも気持ちいい。カレリア組曲と「フィンランディア」は、山響の創立50周年を祝った2022年の4月に行った第300回定期演奏会でのライヴ。こちらも生彩ある音色が清々(すがすが)しい。

 

ドミンゴ・インドヤンは1980年ベネズエラ生まれの気鋭。2021年秋に英ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に就いた。有名な「エル・システマ」で音楽教育を受け、欧州で腕を磨いた本格派だ。長い歴史を誇る楽団の伝統ある響きを受け継ぎ、この「悲愴」では節度ある端整なリードを見せる。ハーモニーの妙や自然体の起伏を大切にし、曲本来の構成美を丁寧に示す手腕は確かだ。楽団の音色も穏やか。

 

スロヴァキア最初の国立オーケストラが、1949年創立のスロヴァキア・フィル。2020年からダニエル・ライスキンが首席指揮者を務める。本作は期待のチェリスト、笹沼樹がソロを受け持つドヴォルザークがメインだが、1曲目にはスメタナ「ヴルタヴァ」(モルダウ)が収められており、オーケストラも主役。どこか手作りのヒューマンな温(ぬく)もりを残す素朴な持ち味が聞ける。

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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