先駆的存在ならではの企画
国内の音楽専用コンサートホールで先導的な役割を果たしてきたサントリーホールが、2026年に開館40周年を迎える。これを記念して、同年4月1日から翌27年2月末までの11カ月間、節目を祝う様々な企画が催される。「この瞬間が、未来になる」をキーメッセージに、40周年ロゴマークが制定された。
都内初のコンサート専用ホールとして1986年10月12日に開館したサントリーホールは、客席がステージを取り囲むヴィンヤード形式を日本で初めて採用。特有の優れた音響特性を好む世界の一流演奏家は多い。
記念公演はホールが独自に制作する主催公演を中心に、国内の主要楽団や招へい会社と行う共催公演との2本立てで、例年のほぼ2倍という多彩なスペシャル・メニューを用意する。音楽事務所が単独で開く参加公演にも、目ぼしい出し物が並ぶ。今後さらに追加があるという。次世代の演奏家を育成するアカデミー等にも注力する。
ホールの歴史を刻む主催事業
メインイベントは、ウィーン・フィルが登場する「サントリーホール40周年記念ガラ・コンサート」(10月31日、11月1日)。85歳になる巨匠リッカルド・ムーティの指揮で、ピアノに内田光子を迎える。同フィルは30周年記念に続いての参加となる。同楽団はそのまま「ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン2026」(11月)に臨み、通常コンサートのほか、次世代育成に向けた特別企画「無料公開リハーサル」「青少年プログラム」「公開マスタークラス」にも協力する。
同ホールの完全オリジナル作品で、海外からも高く評価されたタン・ドゥン作曲のホール・オペラ「TEA」の再々演(7月)は、この会場ならではの独自性が発揮されたプロダクション。コンサートホールで行うオペラ公演という形態をフルに生かした名作だ。
15周年となる室内楽の祭典「チェンバーミュージック・ガーデン 2026」(6月)は、翌年が没後200年のベートーヴェンなどに焦点をあて、やはり同ホールの記念年ならではの内容となる。現代音楽の祭典として1987年から続く「サマーフェスティバル」(8月)にも「40周年記念公演」を組み込む。国内初の子供向けオーケストラ定期公演「こども定期演奏会」は12月で第100回に到達し、特別プログラムを披露する。
ソリストではチェロのヨーヨー・マ(10月)、ヴァイオリンのMIDORI(27年1月)がスペシャルコンサートを開催。ピアノの小山実稚恵は期間中に3回(6、10、27年1月)のリサイタル・シリーズを予定する。珍しい企画としては、小林研一郎の「500回記念コンサート」(仮称、10月)がある。ひとつのホールに一人の指揮者が出演した回数の累計が500回に及ぶ、ギネスブックものの偉業を讃える。
期間の最終日となる2027年2月28日には「40周年フィナーレ・コンサート」を開く。この間に行った「サントリーホール・アカデミー」など次世代育成事業の成果発表を兼ねる。同ホールは翌3月から改修工事に入る。
他団体との記念事業も
他団体との共催公演では、国内主要オーケストラの周年事業と重なるコンサートが多い。まず京都市交響楽団が70周年記念として、常任指揮者・沖澤のどかのタクトで登場(4月)。日本フィルは創立70周年記念特別演奏会で、首席指揮者のカーチュン・ウォンと進めるマーラー・チクルスの一環で、交響曲第8番「千人の交響曲」を演奏する(6月)。東京交響楽団は創立80周年記念公演として、新たな音楽監督ロレンツォ・ヴィオッティと、フランツ・シュミットのオラトリオ「七つの封印の書」に挑む(9月)。NHK交響楽団は創立100年記念で、首席指揮者のファビオ・ルイージとプッチーニの歌劇「トスカ」を演奏会形式で取り上げる(10月)。ルイージがN響で振る初めてのオペラとなる。
来日オーケストラの顔ぶれも豪華だ。2025年と同様、11月後半の集中ぶりに目を見はる。クリスティアン・ティーレマン指揮のベルリン国立歌劇場管弦楽団、テオドール・クルレンツィス指揮のユートピア管弦楽団、サイモン・ラトル指揮のバイエルン放送交響楽団と3団体が、この2週間にまとめて来演する。ウィーン・フィルを含めた「4大オーケストラ」の競演は、記念年ゆえのぜいたくな顔合わせだろう。
ホールの「協力」名義が入る参加公演にも魅力的なラインナップがそろう。それもこれも、40年かけて積み重ねてきた同ホールの定評ゆえ。足を運ぶ機会がいちだんと増えそうだ。
(深瀬 満)
公演データ
サントリーホールARKクラシックス2025
10月3日(金)~7日(火) サントリーホール大ホール&ブルーローズ(小ホール)
アーティスティック・リーダー
ピアノ:辻󠄀井伸行
指揮・ヴァイオリン:三浦文彰
スペシャル・ゲスト
指揮・ヴァイオリン・ヴィオラ:ピンカス・ズーカーマン
ゲスト・アーティスト
チェロ:アマンダ・フォーサイス
ピアノ:清水和音
トランペット、フリューゲルホルン:セルゲイ・ナカリャコフ
ハープ:吉野直子
チェンバロ:曽根麻矢子
ヴァイオリン:南 紫音
ヴィオラ:鈴木 学
チェロ:伊東 裕 ほか
プログラム詳細はサントリーホールARKクラシックス2025 公式WEBページをご覧ください
https://avex.jp/classics/arkclassics2025/
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。










