N響創立100周年のスペシャル企画

12月にもN響定期の指揮台に立った首席指揮者ファビオ・ルイージ 写真提供:NHK交響楽団
12月にもN響定期の指揮台に立った首席指揮者ファビオ・ルイージ 写真提供:NHK交響楽団

日本を代表するオーケストラのひとつであるNHK交響楽団が2026年10月に創立100年を迎える。これに先立ち2026/2027シーズンの定期公演のラインナップを始めとするアニバーサリー企画の概要が発表された。ベートーヴェンの交響曲ツィクルスからドラクエ、ポケモンまで多彩な内容に注目が集まっている。そこで企画立案の責任者である同団の西川彰一芸術主幹に話を聞き、その聴きどころを紹介する。
(宮嶋 極)

このほど発表されたN響の100年企画を見渡すとまず目を引くのが同オケのレパートリーの中核ともいえるベートーヴェンの交響曲ツィクルス。26年9月から12月までの定期Cプログラムと年末第9公演でコンプリートされる。さらに桂冠名誉指揮者ヘルベルト・ブロムシュテットとクリストフ・エッシェンバッハの指揮でブラームスの交響曲全4曲も26年10月の特別公演で演奏される。また首席指揮者ファビオ・ルイージの指揮でフランツ・シュミットのオラトリオ「7つの封印の書」(26年9月定期Aプロ)、創立記念日を祝う10月3、4日には同じくルイージ指揮でマーラーの交響曲第2番「復活」、さらにプッチーニの「トスカ」(10月10、12日、演奏会形式)、27年1月10、11日にはワーグナー作品を中心にしたニューイヤー・コンサートも予定されている。
加えて「ドラゴンクエストⅣ」コンサート(27年2月27日ほか)、N響×ポケモン クラシックコンサートツアー(26年8月)など幅広いジャンルで多彩な企画が並ぶ。

これらの企画意図について西川主幹は「2027年がベートーヴェン没後200年という節目であり、26年9月から定期公演のCプログラムで交響曲全曲を、年明けからピアノ協奏曲を順次取り上げていきます。これらはN響らしい巨匠を中心とした指揮者陣で実施して参ります。また、Aプロは長大な交響曲や合唱付きの曲など、本格的な作品を好まれる定期会員の方に向けてかなり骨のある大型作品を並べています。Bプロは(サントリーホール改修工事のため)3回しかありませんが、それに代わるスペシャル・プログラムとしてブロムシュテットさんとエッシェンバッハさんによるブラームスの交響曲ツィクルス、ルイージさんの指揮で〝トスカ〟の演奏会形式上演、さらにバッハの〝マタイ受難曲〟初演から300年を記念しての公演なども予定しています。ABCでそれぞれ統一感のあるコンセプトを打ち出しています」と説明した。

来シーズンの聴きどころを語る、NHK交響楽団の西川彰一芸術主幹
来シーズンの聴きどころを語る、NHK交響楽団の西川彰一芸術主幹

ベートーヴェンの交響曲は1・3番をルイージ(9月)、8・5番はエッシェンバッハ(10月)、2・6番はトゥガン・ソヒエフ(11月)、4・7番はシャルル・デュトワ(12月)、第9番はマレク・ヤノフスキ(12月)がそれぞれ指揮をする。

記念シーズンの幕開けを飾る26年9月定期Aプロはルイージの指揮でフランツ・シュミットのオラトリオ「7つの封印の書」を取り上げる。シュミットは19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍したオーストリアの作曲家で「7つの封印の書」は5人のソリスト、混声合唱、オルガンなどを伴い演奏に約140~150分を要する大作。バッハの受難曲に触発されて創作されたオラトリオで、イエス・キリストがこの世の終末を示したとされる新約聖書の最終巻「ヨハネの黙示録」がテキストのベースとなっている。世界的にも演奏機会は少ない作品でN響が取り上げるのも初めてとなる。ところが、そんな珍しい作品を同じ9月に東京交響楽団が創立80周年記念公演として新音楽監督ロレンツォ・ヴィオッティの指揮で演奏する。ぜひとも両者を聴き比べてみたいものである。
「〝7つの封印の書〟はN響2000回定期(2023年12月)の候補曲のひとつでもありましたが、われわれも3曲のうちマーラーの〝千人の交響曲〟が(ファン投票で)選ばれるであろう、と考えていました。その時からルイージさんとは〝いつか必ずやりましょう〟と温めてきたもので、彼は首席指揮者就任前からこの作品に意欲を示していたこともあり、満を持して記念シーズンの幕開けにもってきました。ただ、偶然にも東響さんと被ったのは驚きました。(笑い)」と西川主幹。

また、サントリーホールの開館40年企画としてルイージの指揮でプッチーニの「トスカ」を演奏会形式で上演するのも注目される。オペラ指揮者として多くのキャリアを積んできたルイージがN響とオペラの全曲演奏に取り組むのは初めて。西川氏は「いつかはルイージさんとオペラのコンチェルタンテをやりたいと考えていましたが、サントリーホールさんの40周年と私たちの100周年というタイミングで実現に至りました」と語る。

一方、これら本格クラシック音楽のプログラムに対して「ドラゴンクエストⅣ」コンサートとN響×ポケモン クラシックコンサートツアーも目を引く。西川主幹によると「ドラゴンクエストやポケモンなどのプログラムを通じて親しみやすさを提供し、将来に繋がる若い年代の聴衆を増やしていきたいと考えています。これまでもユースチケットの拡充なども行っており、実際に聴衆が若返ってきた実感があります」と語る。

さらに東京・春・音楽祭ではシェーンベルクの大作「グレの歌」をヤノフスキの指揮で(26年3月)、同音楽祭ワーグナー・シリーズではアレクサンダー・ソディ指揮で「さまよえるオランダ人」(26年4月)も予定されている。

99歳の桂冠名誉指揮者ヘルベルト・ブロムシュテットは10月に来日し、ブルックナーやブラームスを振る 写真提供:NHK交響楽団
99歳の桂冠名誉指揮者ヘルベルト・ブロムシュテットは10月に来日し、ブルックナーやブラームスを振る 写真提供:NHK交響楽団

N響はここ数年、ペトル・ポペルカ、タルモ・ペルトコスキ、ギエドレ・シュレキーテ、ライアン・バンクロフトらライジングスターともいうべき実力派若手・中堅指揮者を定期などに積極的に招へいするなどしている。このほど発表された聴衆のアンケートによる「最も心に残ったN響コンサート&ソリスト2024-2025」ではルイージやブロムシュテット、ソヒエフら大指揮者たちによる公演を抑えてマーラーの交響曲第1番などを取り上げたペルトコスキ指揮による25年6月の定期Cプロが1位に選ばれるなど、この路線も聴衆の大きな支持を集めている。「巨匠指揮者は知名度が高く集客にも結び付くのですが、それだけに安住しているわけにはいきません。そこはバランスが大切であり(N響との共演が)うまくいった若手はこれからも続けて招へいしていきたいですし、また新たな顔ぶれも登場させていきたいですね。知名度が多少落ちることでその回は少しお客さんが減ったとしても未来を切り拓いていく種まきとして意味のある公演になると考えています」と西川氏はバランスを取りながらも若手起用の路線は今後も継続していくことを明かした。

「最も心に残ったN響コンサート&ソリスト2024-2025」コンサート部門で1位に選ばれたタルモ・ペルトコスキによる6月Cプロ 写真提供:NHK交響楽団
「最も心に残ったN響コンサート&ソリスト2024-2025」コンサート部門で1位に選ばれたタルモ・ペルトコスキによる6月Cプロ 写真提供:NHK交響楽団

盛りだくさんの100周年企画は2026年9月からスタートし、27年6月まで続く。公演等の詳細はN響ホームページをご参照ください。

N響100年|おもな記念事業について | NHK交響楽団

公演データ

サントリーホールARKクラシックス2025

10月3日(金)~7日(火) サントリーホール大ホール&ブルーローズ(小ホール)

アーティスティック・リーダー
ピアノ:辻󠄀井伸行
指揮・ヴァイオリン:三浦文彰

スペシャル・ゲスト
指揮・ヴァイオリン・ヴィオラ:ピンカス・ズーカーマン

ゲスト・アーティスト
チェロ:アマンダ・フォーサイス
ピアノ:清水和音
トランペット、フリューゲルホルン:セルゲイ・ナカリャコフ
ハープ:吉野直子
チェンバロ:曽根麻矢子
ヴァイオリン:南 紫音
ヴィオラ:鈴木 学
チェロ:伊東 裕 ほか

プログラム詳細はサントリーホールARKクラシックス2025 公式WEBページをご覧ください
https://avex.jp/classics/arkclassics2025/

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宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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