仙台フィルが常任指揮者交代 得意のプログラムでシーズン・フィナーレ

常任指揮者最後の公演でシーズン・フィナーレを飾った飯守泰次郎
常任指揮者最後の公演でシーズン・フィナーレを飾った飯守泰次郎

 仙台フィルハーモニー管弦楽団常任指揮者のバトンがこの4月、飯守泰次郎から高関健へと渡される。これに先立ち、2月に高関によるショスタコーヴィチの交響曲第10番をメインに据えた定期公演が、また3月には飯守が得意とするワーグナー&ブルックナー・プロによる定期公演がそれぞれ行われた(取材日:2月18日、3月17日)。今回はその公演の様子に触れつつ、指揮者の変遷にともなう変化について、振り返りたい。(正木裕美)

 

 高関が指揮台に立った2月定期では、小山実稚恵をソリストにベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」と前述のショスタコーヴィチ10番が取り上げられた。小山と仙台フィルとの協演は、じつに8年ぶりである。

 

 芯のある音色で決然と弾き進める小山のピアノは、一切の妥協や隙(すき)がない。冒頭のカデンツァを聴き手の耳に心に刻み付けるように豪壮に弾き進めると、厳然とした骨太の構成で格調高く音楽を組み上げた。

 

 これはもちろん、指揮者の高関健との連携も大きいだろう。緻密な構成で聴き手に音楽の本質をつまびらかにするのは高関の身上だ。メインのショスタコーヴィチでも序奏で動機を印象付けて痛烈で鬼気迫るほどに畳みかける一方、ゆるやかなワルツ風のテーマを対比的に聴かせ、情感を揺さぶる。オーケストラ全体が強烈に神経を研ぎ澄ませて鋭いリズムを刻み、だからこそ際立つ旋律の交差や切迫感。その積み重ねは、指揮者の音楽に共感し、一心不乱に音楽の表出に取り組む姿勢が作り出すもので、ショスタコーヴィチに精通した高関の指揮にふさわしい力演だった。

現在は仙台フィルのレジデント・コンダクターを務め、4月より常任指揮者に就任する高関健
現在は仙台フィルのレジデント・コンダクターを務め、4月より常任指揮者に就任する高関健

 3月定期では、ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」より〝前奏曲と愛の死〟とブルックナーの交響曲第7番(ノーヴァク版)で飯守の常任指揮者として最後の機会を飾った。冒頭のピアニッシモが強めで意外な印象を受けたが、チェロとオーボエによるいわゆる「トリスタン和音」の提示効果を狙ったものだろうか? その後の情感の発露はすさまじく、永遠に満たされない想いを象徴するかのような細かいデュナーミク(強弱)と非終結和音の繰り返し、愛を歌う上昇型のモティーフと、けっして急かずに音の運びを重心低くなぞることで、心情を浮き彫りにしていた。「トリスタン…」好きとしては、その情景へ強く引きこまれる思いがした。

 

 続くブルックナーの7番もまた、半音階進行が多用されており、ワーグナーの影響が色濃い作品のひとつ。その死も深くかかわる作品であり、プログラムの一貫性が垣間見える。飯守はノーヴァク版を指示通りのシンバル、トライアングル、ティンパニを用いて演奏した。

 

 スケルツォの冒頭、トランペットによるテーマが1音抜けてしまった際はさすがに冷や汗をかいたが、4楽章では安定を取り戻した様子。また神谷未穂、西本幸弘ら両コンサートマスターがそろったこの日の弦の響きは格別で、一切の雑味がない。第4楽章の休符後のアインザッツで、呼吸音とともに「ザンッ」と鳴り響くその気迫と音色を、これまでの仙台フィルで聴いたことがあっただろうか。熱演を聴き逃すまいとする聴き手の集中力もすさまじく、弾き手と聴き手が公演を作り上げる、まさにそんな瞬間だった。

 

 2018年から飯守が常任指揮者となると聞いて、当時大変に驚いた記憶がある。それは、例えば前任の常任指揮者パスカル・ヴェロやミュージック・パートナー山田和樹のように、仙台フィルはどちらかというとオーケストラを盛り立てて音楽をともに作り上げる指揮者と、華やかに熱演を繰り広げるイメージがあったからだ。それが特にここ1年ほどは、ブラームスで、あるいはシューマンで、静かに音楽に一筋の光をあて、内在する意図を顕わにしようと取り組む場面を目にするようになった。この変化を目の当たりにして、飯守泰次郎という指揮者の、すごさを改めて感じている。今後はそのバトンは高関に託されるが、高関も精緻に音楽の本質を紡ぎ出す名指揮者である。50年のオーケストラの歴史で培った積み重ねを、高関のもと、多分に発揮してくれることを願っている。

 

公演データ

【仙台フィルハーモニー管弦楽団2月&3月定期演奏会】

〇第361回定期演奏会

2月17日(金)19:00、18日(土)15:00

日立システムズホール仙台 コンサートホール

指揮:高関 健
ピアノ:小山 実稚恵
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」変ホ長調 Op.73
ショスタコーヴィチ:交響曲第10番ホ短調Op.93

 

〇第362回定期演奏会

3月17日(金)19:00、18日(土)15:00

日立システムズホール仙台 コンサートホール

指揮:飯守 泰次郎
ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」より〝前奏曲と愛の死〟
ブルックナー:交響曲第7番ホ長調WAB.107

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正木 裕美

まさき・ひろみ

クラシック音楽の総合情報誌「音楽の友」編集部勤務を経て、現在はフリーランスで編集・執筆を行い、仙台市在住。「音楽の友」編集部では、全国各地の音楽祭を訪れるなどフットワークを生かした取材に取り組んだ。日本演奏連盟「演奏年鑑」東北の音楽概況執筆担当。

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