森山太陽
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vol.4 森山太陽

W.A.Morzart: Non più andrai / G.Donizetti: O Lisbona, alfin ti miro

今後活躍が期待される若手音楽家を取り上げる動画企画『クラズム~夢を奏でる~』の第4回目は、国立音楽大学4年在学中の森山太陽さんを特集。

森山さんには音楽や声楽を始めたきっかけ、演奏前の過ごし方、普段の練習、将来の夢などについて語ってもらいました。また、国立音楽大学教授で、日本を代表するオペラ界の重鎮的な存在ともいえる黒田博先生にもお話を伺うとともに、声楽のレッスンを取材しました。

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いつか黒田博先生と同じ舞台に! 
バリトン 森山太陽の夢

Interview [full ver.] : 森山太陽

森山さんと音楽との出会いは?
──私が小学4年生の時に、2歳年上の姉が金管バンドに所属していて、上の大会に進むと、福岡に行けるというのがコンクールであって、自分は鹿児島出身なんですけど、その金管バンドに入ったら福岡まで行けるのかなと思って、金管バンドに入ったのが音楽を始めたきっかけになります。

森山さんが初めて演奏した楽器は?
──初めて演奏したのはチューバ。全然吹けなくて、肺活量もなくて音も出ないし、“ああこれは駄目だな”と思った。そんなとき、打楽器をやってみないかと勧められて、打楽器を始めました。

みんなと一緒に曲を演奏するのは楽しかったですか?
──楽しいですね。全体でやると、チームとして団結力があるので、その支え合いで心がすごく落ち着きました。

声楽を始めたのは?
──高校2年生の時に始めました。部活動やコンサート、演奏会で曲を歌うことがあるんですけど、それを高校に入ってからやっていました。吹奏楽の先生に「あなたは声がいいから、歌を本格的に学んでみたら」と勧められたのが始めたきっかけになります。

はじめからよく歌えましたか?
──人より声が大きいかなと、ちょっと思いました。

歌と楽器の演奏との違いは?
──歌は楽器を使わないというか自分が楽器なので、この身一つで歌える。音楽が発信できるっていうのに魅力を感じました。

今回2曲演奏して頂きましたが、選曲の理由は?
──大学に入るまで全くオペラのアリアを歌う機会がありませんでした。大学に入ってから初めて歌ったアリアが、この2曲でした。

曲の解釈はどういう風に深めていますか?
──まず、その曲の歌詞の意味を調べて、そこから想像力を働かせて、その想像したものを表現できるように、普段テレビドラマや映画を観たり、本を読んだりして発信する力を得ようと日々頑張っています。

どんなことを意識して歌っていますか?
──緊張してしまう方なので、普段以上のことをやってしまうと、息が持たなくなったりしてしまいます。大学に入ってからは、本番は7~8割で歌う、10割で歌わないっていうのを意識しています。

本番前ってどんな感じで過ごしていますか?
──本番前は落ち着かなくて、色んなところ歩いたり、人と喋ったり・・・・とにかく歩いて落ち着かせています。

練習時間は?
──平日は、歌詞を覚えたり、詩の理解を深めたりして、本格的に声を出すのは、お風呂に入りながらの発声練習から、そのまま上がって、1時間ぐらい曲の練習をしています。
休日も平日とあまり変わらず、お風呂に入ってからそのまま歌の練習をするのがルーティンになってます。

お風呂で練習するのは、身体が温まるからですか? 
──ホールの響きを大切にしたくて、お風呂は声が響くので、その響きをお部屋でも保てるようにと意識してやり始めました。

自分に聴こえてくる内声と、ホールで響く声は違うと黒田先生から聞きましたが、声の出し方は、どう意識していますか?
──自分で歌っている時に聴こえる声を信じないようにしています。自分では合ってると思っていても、録音を聴いたり、先生にフィードバックしてもらう時に合っていないと指摘されることがあります。
自分が歌えていないつもりでも周りからは、「それは良い声だ」と言われることが多くなってきて、7~8割で歌うっていうのが、ちょうどいいのかなと思い始めました。

力みすぎても、喉が閉じちゃうということですか?
──はい、そうですね。

大学生活で忙しいと思いますが、趣味やリラックス方法は?
──野球が好きで、学校内で友達とキャッチボールをしたり、埼玉西武ライオンズのベルーナドームで、ビールを飲みながら野球観戦をするのがリラックスできる一番の手段だと思います。

伴奏の内野さんとも一緒に結構行かれていると聞きましたが?
──はい、行きますね。

森山さんにとって音楽とはどんな存在ですか? 
──高校時代の歌の先生が、「音楽は一つの言語」と言っていました。その時は、あまりよく理解できてなかったんですけど、音楽に乗せて何か言葉を伝えるっていうのが一つのコミュニケーション。それこそ言語だと思うので、その音楽を作った人がいて、その人たちの気持ちや思いを伝えるのが私達の役目。それを伝える手段が音楽なのかなと思います。

5年後や10年後の目標は?
──今、オペラを歌えるほどのレパートリーや体力がないので、1本3時間ぐらいのオペラでも歌えるような体力をまず付けること。一つの役を自分のものにするのが、最近の目標です。5年後、10年後で言うと、大きいホールで歌ってみたいっていうのが目標です。

最後の質問です。将来どんな音楽家になりたいですか?
──黒田先生と一緒に劇場で歌えるくらいの音楽家になるのが理想です。
日本は海外よりもオペラが広まってない気がするので、発信できる能力、日本の方々にもオペラを楽しんでいただけるように広めていく、自分から発信していきたいと思っています。

Interview : 黒田博

すごく楽しそうな雰囲気でレッスンされているんですね。
──そうですね。
いつも楽しいかどうかはわかりませんが、自分が好きな曲なのでこちらも乗ってくるというか。できるだけのびのびと歌えるようにってということを、いつも意識しています。あまり厳しいことばかり言わないで、できるだけリラックスして歌えるように心掛けています。

先生と森山さんの出会いは?
──森山くんが高校3年生の時に私が担当した国立音大での体験レッスンを受けたのがきっかけです。特に、彼が私を指名したわけでもなく、僕もたまたま時間が空いたので、レッスンを担当しました。だから運命的な出会いというわけではないです。でも、それが運命だったのかもしれないですね。

どんな印象?
──今とあんまり見た感じは変わらないんですけれども、声の密度が濃いと感じました。
色が濃いと言うのかな、彼は鹿児島の出身ですけど、九州の声っていう感じがしました。やっぱりいい声が多いんですよ。美声が多くて、ああ、この子はすごくいい。他の人にはなかなか出せない声を持っているなと、その時に感じました。

魅力的な声ということ?
──そうですね。誰もが持っているものではないし、訓練してもそこに到達することができる人間、その声を獲得することができる人間というのはそうそういない。

何かしらの宝石の原石だと感じましたね。 変な言い方ですけど、その宝石でもダイヤモンドとガーネットだと全然値段が違う。彼は値段の高い原石だなと感じました。

実践レッスンをされていく中で、変化してきている部分は?
──器用な方ではないと思いますけれども、少しずつ努力しています。声楽というのは、どうしても時間がかかる。男性の声というのは30歳越えないと、いろんな意味でなかなか完成していかない。40代でも若手という風に言われたりします。

そういう意味では今どんどんどんどん訓練して筋肉であるとか、色んなものを育てていくという段階だと思います。でも、ある時突然、歌い手としての体が急成長する時期が来ると思うんです。多分あと1年2年ぐらい先に。急に声楽家として色々な筋肉が付いてくると思いますから、それは楽しみです。

森山さんの演奏時と普段のレッスン時の違いは?
──私に対しては、やっぱり先生ということで少し緊張感を持っています。友達同士で過ごしてるところを見ると、みんなから慕われていると思います。たまに飲むといいキャラクターで、本性を出してくれてるなっていう瞬間があって、すごく付き合いやすいし、良い緩み方をする。歌い手としてちょうどいいんじゃないかと思います。恋の話も、そういう場では話してくれます。

先程のレッスンの様子を見ても、お二人の仲の良さというか、関係の良さが伝わってきました。普段のレッスンの中ではどうですか?
──これからまだまだ育っていく段階。「その声の出し方で今は大きい声は出るけれどもその先がない」とか、「自分の耳や感覚でうまくいったと思っていることも、充実感のある出し方じゃなくて、今の声を育てていかないと、この先うまくいかない。どこかで壁に当たる。」と森山くんに言っています。

自分自身が楽器。自分の聴覚に入ってくる声は殆どが骨格振動で伝わっている音。他人が聴いているのは、全てが空気の振動によって伝わる。そういう意味では他者の耳として聴く。本人の骨格振動ではないところで聴いて、的確なことがアドバイスできればと思います。

それと、音楽的なことに関して言えば、声を持ってる人間なので、どうしても声で全部やろうとしてしまう。でも、音楽全体としては、例えば間の取り方であるとか、ブレスの吸い方とか、そういったもの全てを含めてこそ音楽ということを伝えていきたいと、いつも思ってます。

自身と他人では聴こえ方が違う。客観的に指導していく必要性があるということですか?
──そうですね。いまだにこの歳になっても、録音したものを自分で聴くと、電気通すと違うよねって思っちゃうんですけども、結局自分が聴いている自分の声と、他者が聴いているものは全然違うっていうのは、いまだに思います。 それは、学生にも言うんですけれどね。

ズバリ、森山さんの魅力的なところは?
──声の色。それが一番の彼の魅力だと思います。あとは、その声を活かしてのびのびとした表現ができる。これが彼の何よりの魅力だと思います。だから、あまり細かいことを要求しないように、大らかに歌ってくれればいいなと思っています。彼の性格も大らかですし、それが歌に表れるように、それが一番。彼が上手くはまった時の魅力だと思います。

最後の質問 森山さんに期待していることは?
──彼がどういう道に進んでいくかっていうのは、本人しか決めることができない。でも、神様が彼に与えたその魅力、美声を活かして、それを利用して音楽を作っていく。そういう人間になってくれるのを期待しています。

それとは別に、クラシックの音楽だけにとどまらず、オペラとか歌曲だけではなくて、ミュージカルもありますし、あるいは歌の楽しさとか、歌の素晴らしさというのを次の世代に伝えていくということも重要なことだと思います。彼のような声を持っていれば、それだけで聴く人は喜んでくれると思うので、そういう音楽を伝える立場の人間になってほしいと思っています。

Profile

森山 太陽(バリトン) Taiyo MORIYAMA, Baritone

鹿児島県出身。声楽を高校2年生の時に始める。第71回南日本音楽コンクール入選。現在、国立音楽大学音楽学部 演奏・創作学科 声楽専修4年在学中。オペラ・ソリスト・コースに所属。声楽を溝田凌氏、青山貴氏、黒田博氏に師事。

黒田 博(バリトン) Hiroshi KURODA, Baritone

京都市立芸術大学卒業、東京藝術大学大学院修了。イタリアにて研鑽を積む。
新国立劇場、二期会、日生劇場、びわ湖ホールなどの主催公演でモーツァルト4大オペラのほか、R.ワーグナー『ニュルンベルグのマイスタージンガー』『ローエングリン』『タンホイザー』『パルジファル』やG.ヴェルディ『トロヴァトーレ』『椿姫』『アイーダ』『オテロ』『ファルスタッフ』、G.プッチーニ『ラ・ボエーム』『蝶々夫人』『トスカ』、現代の新作などさまざまなオペラに出演。新国立劇場では『軍人たち』『ラインの黄金』『フィデリオ』『ウェルテル』などの他、日本人作曲家によるオペラに多数出演し、市川團十郎(十二代目)演出による『俊寛』、坂田藤十郎(4代目)演出による『修禅寺物語』に主演するほか、『天守物語』『黒船』『夜叉ヶ池』『鹿鳴館』等に出演。演出家宮本亞門からの信頼も厚く、『キャンディード』パングロスをはじめ、『ドン・ジョヴァンニ』『フィガロの結婚』『魔笛』ほかで主演している。
NHK「名曲アルバム」、「みんなの童謡」、テレビ朝日「題名のない音楽会」等放送にも出演。NHK-BS「プレミアムシアター」では〈ご案内〉役を務めた。
平成15年度京都市芸術新人賞、平成30年度京都府文化賞功労賞を受賞。
国立音楽大学教授。二期会会員。

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