音楽祭といえば、夏や秋がイメージされるが、いまや春も音楽祭の季節となっている。5月の連休中に「ラ・フォル・ジュルネTOKYO」に行った。コロナ禍のため、4年ぶりの開催。コロナ禍以前の公演数には戻っていなかったものの、5000席のホールAで売り切れ公演が出るなど、聴衆のこの音楽祭に対する根強い人気を感じた。そして、金沢での「いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭」にも行った。こちらは「東欧に輝く音楽」をテーマに、地元のオーケストラ・アンサンブル金沢が活躍するとともに、チェコから招かれたヤナーチェク・フィルハーモニー管弦楽団が魅力的な演奏を披露した。
そのほか、4月から5月にかけて宮崎県立芸術劇場では「宮崎国際音楽祭」が開催され、4月末の連休には滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールで「びわ湖の春 音楽祭」が、びわ湖ホール新芸術監督・阪哲朗のもとで新たなスタートを切った。また、3月から4月にかけては、先月の本連載でも取り上げた「東京・春・音楽祭」があった。
今回は、麗しき5月に開催される欧米の二つの伝統ある音楽祭を紹介したい。一つは、今年150周年を迎えるアメリカのシンシナティ5月祭。そしてもう一つは、今年が85回目となるイタリアのフィレンツェ5月音楽祭。
シンシナティ5月祭は、1873年に始まった合唱をメインとする音楽祭で、1878年創設のシンシナティ音楽堂で開催される。過去にジェームズ・レヴァインやジェームズ・コンロンが音楽監督を務め、現在はファンホ・メナが首席指揮者のポストにある。この音楽祭のための5月祭合唱団が知られ、演奏は1895年設立のシンシナティ交響楽団が担う。今年は、メナの指揮でマーラーの交響曲第8番「千人の交響曲」、バッハの「マニフィカート」、ジェームズ・マクミランの音楽祭委嘱新作、コンロンの指揮でモーツァルトの「レクイエム」などが取り上げられる。伝統ある音楽堂での伝統あるフェスティバルは、アメリカ音楽界の春のイベントの一つとして人気を博している。
フィレンツェ5月音楽祭は、1933年に創設されたオペラを中心とする音楽祭。かつてリッカルド・ムーティが首席指揮者を務め、1985年以降はズビン・メータがこの音楽祭を率いた(現在は名誉指揮者)。2022年にダニエーレ・ガッティが首席指揮者に就任。長く市立劇場で公演が行われていたが、現在は2011年にオープンしたフィレンツェ5月音楽祭劇場(略称「5月劇場」)がメイン会場となっている。そのほか、演目によってはヴェルディの「マクベス」やドニゼッティの「パリジーナ」を世界初演した歴史あるペルゴラ劇場も使われることがある。今年は、メータの指揮で「ドン・ジョヴァンニ」、「オテロ」、マーラーの交響曲第2番「復活」、ダニエーレ・ガッティの指揮で「ファルスタッフ」などが上演される。
6月になれば、国内最大規模の室内楽音楽祭「チェンバーミュージック・ガーデン」がサントリーホールで開催され、鈴木優人を中心に古楽を軸とする調布国際音楽祭も始まる。そして日本では、春から夏へと切れ目なく、音楽祭が続いていく。
やまだ・はるお
音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。