~106~ オーケストラの中の室内楽アンサンブル

ジャパン・ナショナル・オーケストラのチェロ・メンバーで構成されるJNOチェロカルテット (C)S. Ohsugi
ジャパン・ナショナル・オーケストラのチェロ・メンバーで構成されるJNOチェロカルテット (C)S. Ohsugi

先日、「ハーモニクス ウィーン=ベルリン」の演奏会を聴いた。ハーモニクスは7人のうち、5人がウィーン・フィル及びベルリン・フィルのメンバー(ベルリン・フィル・コンサートマスターのノア・ベンディックス=バルグリー、ウィーン・フィル首席クラリネット奏者のダニエル・オッテンザマーを含む)である。

ベルリン・フィルのホームページを見ると32団体もの楽団員による室内楽アンサンブルが載っている。有名な「ベルリン・フィルの12人のチェリストたち」のほか、樫本大進、アミハイ・グロス、ヴェンツェル・フックス、シュテファン・ドールらが参加する「ベルリン・フィル八重奏団」、ベルリン・フィルハーモニー・ホールの設計者の名前を冠した「シャルーン・アンサンブル・ベルリン」、モダン楽器に古楽的アプローチを取り入れた「ベルリン・バロック・ゾリスデン」、ヴァイオリンのマレーネ・イトウ(伊藤真麗音)が組むピアノ三重奏団「パンゲア・トリオ・ベルリン」、ヴァイオリンの町田琴和が参加する「ヴィーナス・アンサンブル・ベルリン」、ヴァイオリンのヘレナ・圓(まどか)・ベルクやヴィオラの清水直子がメンバーである「フィルハーモニック・ストリング・クァルテット」、そして、オーボエのジョナサン・ケリーやホルンのドールのほか、ウィーン・フィルのメンバーも参加している木管五重奏団「アンサンブル・ウィーン=ベルリン」、などなど。

ホームページに載っているアンサンブルは、楽団〝公認〟ということなのだろう。良いオーケストラほど、楽団員たちの室内楽活動に肯定的であり、それらの活動がまわりまわってオーケストラ本体にも良い影響を与えると考えているに違いない。

日本のオーケストラで室内楽が盛んな団体といえば、京都市交響楽団があげられるのではないだろうか。京都コンサートホール アンサンブルホールムラタでは、「京都市交響楽団メンバーによる室内楽コンサート」が定期的に開催されていて、同団コンサートマスターの泉原隆志率いる「京都ストリングス」、弦楽器5人、クラリネット、ファゴット、トランペット、打楽器による「京都しんふぉにえった」などが常連として出演している。

ジャパン・ナショナル・オーケストラでも、メンバーによる室内楽シリーズがひらかれている。なかでもチェロのコア・メンバー4人(森田啓介、水野優也、香月麗、佐々木賢二)によって結成された「JNOチェロカルテット」は、コンサートだけでなく、CD録音も行った。

また、新日本フィルハーモニー交響楽団では、メンバーがプロデュースする室内楽シリーズが20年以上続いている。読売日本交響楽団のアンサンブル・シリーズは、室内楽から室内オーケストラのレパートリーまでを手掛ける。

「オーケストラの基本は室内楽」とよく言われているが、日本のオーケストラでも、一人ひとりがフィーチャーされ、聴衆とも近い関係が作れる室内楽がもっと盛んになればと思う。

Picture of 山田 治生
山田 治生

やまだ・はるお

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

連載記事 

新着記事